紅と藍の密命 ― 戦隊ヒロイン極秘任務録 第7話 作戦継続中 ――敵か、友か。祈りは太平洋を越えて
作戦は、まだ動かない。
だが、人の心だけは――確実に動いていた。
ルイスと名乗る少年兵は、もはや単なる「見張り」ではなかった。
彼は、決まった時間になると必ず現れ、
銃を壁に立てかけ、二人の前に腰を下ろす。
「Today… quiet」
「そやな。静かすぎて逆に怖いわ」
美月が肩をすくめると、
ルイスは小さく笑った。
その笑顔は、
“テロリスト”という言葉から想像されるものとは程遠い。
言葉を交わすほどに、心の距離は縮まっていった。
ルイスは冗談を言うようになり、
美月はそれに全力でツッコミを入れる。
「日本のヒーローは空を飛ぶのか?」
「飛ばんわ! 走るんや!」
「残念」
「何がやねん!」
そのやり取りを、綾乃は少し離れた場所で見ていた。
——あかん。
心のどこかで、そう思う。
だが同時に、止められなかった。
やむを得ず組織に参加した少年。
弟妹のために銃を取った青年。
彼に同情する気持ちは、
いつしか“理解”に近づいていた。
それは、危険な感情だった。
「これが……ストックホルム症候群、いうやつどすか」
綾乃は、夜更けに小さく呟いた。
「名前つけたら余計ややこしいわ」
美月は布団代わりの毛布を引き寄せた。
「でもな、綾乃。
ルイスは敵でも怪物でもない」
「……人、どすな」
二人は、同時に黙った。
——その頃、日本。
深川の夜は、静かだった。
波田顧問は、今日も深川八番の境内に立っていた。
手を合わせ、目を閉じる。
「……頼むぜ」
いつもなら、参拝の後に一杯やるのが習慣だった。
だが、作戦開始の日から――
ホッピーを断っていた。
誰よりも酒を愛する男が、酒を断つ。
それがどれほどの覚悟か、
知る者は少ない。
数日後。
その隣に、小春が並ぶようになった。
「今日もですか」
「ああ」
「……私も一緒に」
二人は黙って手を合わせる。
言葉はない。
だが、祈りは確かに重なっていた。
一方、ヒロ室。
遥室長は、落ち着きを完全に失っていた。
椅子に座っては立ち、
資料を開いては閉じ、
コーヒーを淹れては冷ましている。
「……大丈夫、大丈夫」
誰に言うでもなく、
何度も呟く。
グレースフォースの二人――みのりとひかり。
通称、ゆりコンビ。
二人は相変わらず仲が良く、距離も近い。
「最近、空気違いますね」
「うん、重い」
ラブラブではあるが、鈍感ではない。
詩織と陽菜は、いつも通りだった。
「年末なんですよね」
「年末なんですね」
会話は成立しているようで、
何も進んでいない。
だが、その穏やかさが、
逆に場を和ませていた。
紀伊ハンターの三人は好調だった。
現場も、評判も、申し分ない。
——だが。
「あかり!」
彩香の声が飛ぶ。
「あっ、すみません!」
いつもなら雷が落ちる場面だ。
だが、彩香の叱責には、
どこか迫力が欠けていた。
「……次は気をつけて」
声が、弱い。
美咲と麻衣は顔を見合わせた。
「彩香さん、元気ないですね」
「美月さんがいないから、かな」
図星だった。
口喧嘩の好敵手がいない。
あの騒がしさが、欠けている。
彩香は、無意識にスマホを見つめていた。
遠く離れた場所で、
同じ名前を思い浮かべる者たち。
作戦は、まだ継続中。
銃声の代わりに交わされる言葉。
爆発の代わりに積み重なる感情。
それが、
良い兆しか、
それとも破綻の前触れか。
答えは、まだ出ない。
だが確かなのは――
この任務が、彼女たちを静かに変え始めているということだった。




