紅と藍の密命 ― 戦隊ヒロイン極秘任務録 第6話 作戦続行中 ――銃を持つ少年と、言葉を持つ少女
相変わらず、動きはなかった。
銃声もない。
交渉の進展もない。
救出作戦の合図も、まだ届かない。
ただ、日付だけが淡々と進んでいく。
「……今日で何日目や?」
床に座り、壁に背中を預けた美月が呟いた。
「分からへんようになってきたどすな」
綾乃は、指折り数えるのをやめた。
数えるほど、時間の重さが増すだけだった。
そんな停滞した空気が、少しだけ変わったのは――
三日前のことだった。
見張りの交代の時間。
銃を肩にかけた、若い少年兵が現れた。
年は二人とさほど変わらない。
あどけなさの残る顔に、無理やり刻まれた緊張。
綾乃は、いつものように英語で声をかけた。
「Hello」
少年は一瞬、驚いたように目を見開き、
それから小さく頷いた。
「……Hello」
通じた。
それだけで、空気が変わる。
「Do you understand English?」
「Little… little bit」
少年は照れたように肩をすくめた。
それから、少しずつ会話が生まれた。
単語を並べるだけの、たどたどしい英語。
文法も曖昧で、発音も怪しい。
それでも、言葉は通じた。
「名前、聞いてもええ?」
美月が横から口を出す。
「Name?」
少年は一瞬ためらい、
それから小さな声で答えた。
「……Luis」
それからの数日、ルイスは見張りの合間に、
ぽつりぽつりと話すようになった。
世間話。
天気。
食べ物。
「日本の食べ物は?」
「たこ焼きや」
「……タコ?」
「そうや、タコ」
「……クレイジー」
少年は苦笑した。
「失礼やな!」
美月が即座にツッコむと、
ルイスは慌てて首を振った。
「No no! Interesting!」
そのやり取りに、綾乃は思わず微笑んだ。
やがて、話題は自然と彼自身のことへ移っていった。
ルイスは、元々は裕福な家庭で育ったという。
父親は前政権の中枢にいた。
官僚で、要職に就いていた。
だが、クーデターで状況は一変した。
父は失脚。
家は襲われ、資産は没収。
一家は散り散りになった。
「Mother… 어디?」
言葉を探すように、ルイスは額を押さえた。
「分からへんのどすな……」
綾乃が静かに言うと、
ルイスは小さく頷いた。
弟と妹が二人。
まだ幼い。
彼は彼らを養うために、
この組織に入った。
「I don’t want them… like me」
銃を持つ手が、わずかに震えた。
「School… education is important」
その言葉に、綾乃は強く頷いた。
「本当に、その通りどす」
ルイスは続けた。
「You… Japan. Came here. Dangerous」
「巻き込んでしまって、申し訳ない」
拙い英語で、必死に伝える。
美月は、思わず立ち上がった。
「謝らんでええ」
綾乃が一瞬驚いた顔で美月を見る。
「うちらは、自分で来たんや」
美月は、ルイスの目を真っ直ぐ見た。
「誰かを守る仕事や。
あんたが弟妹を守りたいのと、一緒や」
ルイスは、しばらく黙っていた。
やがて、ぽつりと呟いた。
「…You are strange heroes」
「今さらやな」
美月は笑った。
その夜。
簡易居室に戻った二人は、言葉少なだった。
「なぁ綾乃」
「なんどす?」
「テロリストって、なんやろな」
美月は天井を見つめたまま言った。
「悪い奴、倒すだけでええんやろか」
綾乃は、少し考えてから答えた。
「……簡単に割り切れへん世界どすな」
守りたいものがあって、
間違った場所に立ってしまう人間。
正義と悪の境界は、
思っているより曖昧だ。
「でもな」
美月が言う。
「うちらがやることは、変わらへん」
「守る。救う。それだけどす」
二人は、静かに頷き合った。
銃を持つ少年と、言葉を持つ少女たち。
同じ時代に生まれ、
違う場所に立たされた若者。
この出会いが、
作戦に何をもたらすのか――
まだ誰にも分からない。
だが、確かに何かが動き始めていた。
作戦は、続行中。
静かな対話の先に、
次の局面が待っている。




