紅と藍の密命 ― 戦隊ヒロイン極秘任務録 第2話 家族への沈黙 ――笑顔で嘘をつく夜、胸にしまう覚悟
赤嶺家の食卓は、いつも通りだった。
祖父の清一が箸を鳴らし、祖母がお味噌汁のおかわりを勧め、父は新聞をたたみ、母は「冷めるで」と小言を言う。
戦隊ヒロインの家族とは思えないほど、どこにでもある東大阪の夜。
その真ん中で、美月は一度だけ深呼吸をした。
「……あのな。ちょっと大事な話があんねん」
その声色に、全員が箸を止める。
美月は、事前に何度も考えた言葉を、できるだけ平坦に並べた。
「戦隊の任務でな。ちょっと長い間、家あけることになりそうや」
一瞬、沈黙。
しかし次の言葉が、空気を決定的に変えた。
「国際問題になるかもしれん案件で、日本国憲法にも抵触する可能性がある。左派系団体が騒ぎ立てる恐れもあるから……この話、絶対に外でせんといて」
祖父母も含め、全員にかん口令。
その重さを、美月は笑顔で包んで差し出した。
「数か月単位で帰られへんかもしれん。近所にはな、鳥取の免許合宿行ってることにしてほしい」
母が即座に反応する。
「なんで鳥取なん……」
「なんかそれっぽいやろ!」
父が苦笑する。
「お前、免許持ってへんやろ」
「これから取るねん! 気持ち的にはもう合宿中や!」
祖母が小さく笑った。
「美月らしいわ」
祖父は、しばらく黙っていたが、やがて低く言った。
「……命だけは、持って帰ってこい」
それだけだった。
余計な励ましも、涙もない。
赤嶺家らしい、不器用な激励だった。
その夜。
美月は自室のベッドに腰を下ろし、押し入れから大きなしろくまのぬいぐるみを引きずり出した。
「……なぁ、しろくま先生」
声は、昼間よりずっと小さい。
「ホンマはな、怖いねん」
初めて、誰にも見せなかった顔。
「無事に帰ってこれる自信、正直ない。もう会われへんかもしれん」
しろくま先生は、いつも通り無言だ。
だが、美月には、なぜか聞こえた気がした。
――みーちゃんなら、多分大丈夫や。
「多分て……雑すぎるやろ……」
涙をこぼしながら、笑う。
それが、美月なりの覚悟だった。
時を同じくして、京都。
西園寺家の広い座敷で、綾乃は正座していた。
祖父、祖母、母。
名家にふさわしい静かな空気の中で、彼女は淡々と告げる。
「国家に関わる極秘任務を拝命しました」
祖父は目を閉じ、ゆっくりと頷く。
「……失敗すれば?」
綾乃は一瞬も迷わず答えた。
「西園寺家の者として、立派な最期を遂げてまいります」
祖母は目を伏せ、母は何も言わなかった。
引き止める言葉は、誰からも出ない。
それが、西園寺家の送り出し方だった。
同じ夜、同じ覚悟。
赤嶺美月は笑顔で嘘をつき、
西園寺綾乃は沈黙で覚悟を示した。
紅と藍。
性格も家も違う二人が、同じ密命へと歩き出す。
その重さを知るのは、家族と、ぬいぐるみと、静かな夜だけだった。




