紅と藍の密命 ― 戦隊ヒロイン極秘任務録 第1話 紅と藍の密命
中米の某国。
熱と埃と銃声が混じるその地で、米国大使館占拠事件はすでに数か月を経過していた。
犯人は国際的なテロ組織。
水面下では、あのジェネラス・リンクとのつながりも噂されている存在だった。
彼らの目的は単純な金や政治犯釈放だけではない。
――日米関係の悪化。
それを象徴的に世界へ示すため、犯人たちは狂気じみた条件を突きつけてきた。
「日本人女性を、人質交換として差し出せ」
外交史上、前例に近いものはあっても、許容できる要求ではない。
米国政府は単独での解決を断念し、極秘裏に日本政府へ協力を要請した。
その窓口に名前が挙がったのが、
波田巌蔵――戦隊ヒロインプロジェクト顧問だった。
■ 波田顧問、激怒す
外務省の会議室。
空気は張り詰め、言葉一つで火花が散りそうな状況だった。
「……冗談じゃねぇ」
低く、しかしはっきりとした声で、波田は言い切った。
「女の子を“交換条件”として出せ?
ヒロインは道具じゃねぇ。外交の駒でもねぇ」
官僚たちは言葉を選びながら食い下がる。
「しかし、現状では他に選択肢が……」
「米国側も最大限の安全確保を約束して――」
「約束?
銃口の前で“約束”が通用するなら、戦争なんざ起きねぇんだよ」
机を叩く音が響く。
この時点で、波田は全面拒否の姿勢を崩さなかった。
会議は紛糾し、時間だけが過ぎていく。
だが最終的に、日本側が飲んだ条件はただ一つだった。
協力は限定的。
参加するヒロインの安全は絶対条件。
一切の隠蔽や切り捨ては認めない。
米国当局は沈黙ののち、首を縦に振った。
■ ヒロ室、運命のスタッフ会議
新橋・ヒロ室ミーティングスペース。
いつもより人が多く、空気は妙に重い。
波田顧問、遥室長、隼人補佐官、すみれコーチ、琴音(議事録)。
誰一人、軽口を叩く余裕はなかった。
「……選抜は二名」
波田がそう切り出す。
条件は明確だった。
戦闘経験があり、極限下でも折れない精神力。
かつ、交渉と国際対応が可能な知性。
自然と、名前は絞られていく。
赤嶺美月。
西園寺綾乃。
沈黙の中、遥室長が静かに頷いた。
「この二人なら……条件は満たしています」
波田は歯を食いしばりながら、続けた。
「断る権利は、本人にある。
無理強いはしねぇ」
■ いつもの喧嘩、そして呼び出し
その頃のヒロ室。
まるで嵐の前触れを知らぬかのように、
美月と綾乃は、くだらないことで揉めていた。
「絶対あれ、地毛やろ」
「残念どす。カツラに決まってますえ」
話題は、某通販でおなじみの社長。
カツラか否か。
「地毛や言うてるやろ!
ウチのツインテールと同じ生命力や!」
「比較対象が間違ってます」
そこへ彩香が油を注ぐ。
「どう見てもカツラやろ」
「なんで彩香まで敵に回るねん!」
険悪になりかけた瞬間、
遥室長が淡々と割って入った。
「……どっちでもいいら。
安くて良い商品なら、それでいいら?」
一同、沈黙。
「赤嶺さん、西園寺さん。
少し、個別で来てください」
空気が変わった。
■ 密命
別室。
遥室長は、静かに資料を机に置いた。
「……断ってもいいです」
その一言に、美月と綾乃は顔を上げる。
「危険な任務です。
国家間の問題に、あなたたちが巻き込まれます」
沈黙の後、
美月が先に口を開いた。
「……やります」
綾乃も、迷いなく続く。
「私も同じどす」
遥は目を細めた。
「この任務は極秘。
家族以外、誰にも話せません」
「了解です」
部屋を出たあと、
美月は一人だけ呼び止めた。
彩香だった。
「……ちょっと、行ってくる」
理由は言わない。
だが彩香は、何も聞かずに頷いた。
「生きて帰って来い」
それだけで、十分だった。
こうして――
世界が知らない場所で、
二人の戦隊ヒロインの密命が、静かに動き出した。




