止まれ言うたやろが!――尼崎を制圧した神戸の鬼代官
兵庫県尼崎市。
駅前の広場に、やけに物々しい横断歩道のマットと、三色の信号機(※段ボール製)が設置されていた。
その前に立つのは、背筋が一本の直線でできている女。
岡本玲奈、27歳。
兵庫県警交通課、そして――
戦隊ヒロイン界隈ではすっかりおなじみ、神戸の鬼代官である。
「今日はな、難しい話はせぇへん。
命守る話を、笑って覚えてもらう日や」
集まった尼崎の子どもたちは元気いっぱい。
その後ろで、なぜか一番緊張しているのは、戦隊ヒロインたちだった。
「……なぁ美月」
「なんや彩香」
「うち、嫌な予感しかせぇへんねんけど」
その予感は、秒で的中する。
■ 第一幕:横断歩道は“走る場所”ちゃう
「はい、まずは悪い例からいこか」
玲奈が手を挙げると、
ステージ袖から赤嶺美月が飛び出してきた。
「任せとき!
悪い例言うたら、うちの十八番や!」
その瞬間、子どもたちがざわつく。
信号は――赤。
にもかかわらず、美月は周囲を一切見ずに、
「行ける行ける行けるー!!」
と、わざとらしく小走りで横断歩道へ突入。
「ちょ、ちょっと待――」
彩香の制止を無視して、
「うわっ! トラック来たー!
……て、来てへんけどな!」
子どもたちは腹を抱えて大爆笑。
玲奈、腕組み。
「……はい、論外。
これはな、笑ってる場合ちゃうやつや」
美月、即座に土下座ポーズ。
「すんません!
うち、反面教師として生きてます!」
「反面教師は便利な言葉ちゃうで」
■ 第二幕:良い例という名の優等生
「次、良い例。西川彩香さん」
「はいはい、任されましたわ」
彩香は信号を確認し、
左右をきっちり二回ずつ見て、
「右よし、左よし、もう一回右よし。
……行こか」
落ち着いた動きで横断。
「おぉ~!」
と、子どもたちから素直な拍手。
美月が横でぼそっと言う。
「……なんやねん、その教科書」
「教科書通りが一番安全なんや」
玲奈、深く頷く。
「その通りや。
事故起こさん人間は、地味やけど正しい」
■ 第三幕:自転車は凶器になり得る
続いて、自転車コーナー。
ここでも当然、悪い例は――
「はい、赤嶺さん、もう一回」
「またうち!?」
美月、ノーヘル・片手運転・スマホ見るフリの三点セット。
「LINE来てる~!
……既読つけとこ」
子どもたち、再び爆笑。
「アウト。
免停三回分や」
「まだ免許もってへんのに!」
■ 紀伊ハンター、参戦
ここで登場したのが、紀伊ハンターの三人。
「自転車はな、
ちゃんと止まれるスピードで走らなあかんで」
落ち着いた説明に、会場が一気に聞き入る。
「わかりやすーい!」
「さっきのお姉ちゃん(※美月)と全然違う!」
美月、即ツッコミ。
「そらそうや!
うちは笑い担当や!」
■ 県警の手応え(そして内心のガッツポーズ)
イベントは終始大盛況。
最後に玲奈が締める。
「今日覚えてほしいのは一つだけや。
急がんでも、ちゃんと生きて帰る方が大事」
子どもたち、元気よく、
「はーい!!」
その様子を見ていた兵庫県警の職員が、こそこそ話す。
「……これ、イケますね」
「うん、予想以上や」
「“寸劇方式”、全国展開ありちゃいます?」
その横で、玲奈は腕を組みながら小さく呟いた。
「……笑って守れるなら、それでええ」
一方、楽屋。
「なぁ玲奈さん」
と美月。
「次のイベント、
うちの悪い例、もっと派手にしてええ?」
「……安全な範囲でな」
「ほな、次は信号機ごと倒れます!」
「却下や!!!!」
尼崎の夕空に、
笑い声とツッコミがいつまでも響いていた。
――神戸の鬼代官、
今日もまた、子どもたちの命を守りながら、
しっかり笑いもかっさらっていったのであった。
(なお、美月はこの日、
「悪い例専門ヒロイン」という新ジャンルを確立したらしい)




