末っ子属性、返上しました――紀州の舞姫・白浜麻衣(最近ちょっと怖い)
戦隊ヒロインプロジェクトの関係者が、最近そろって口にする言葉がある。
「一番伸びたの、誰?」
その問いに、間髪入れず返ってくる答えはひとつだ。
――白浜麻衣。
遥室長はミーティングで何度も言っている。
「麻衣さんは、育成の“成功例”です」と。
すみれコーチも、腕を組んで頷く。
「ええ、最初は守る側だと思ってたけど……今は完全に“支える側”だね」
近江商人の琴葉に至っては、帳面を叩きながら、
「この成長曲線は見事や。人材育成の教科書に載せたいくらいやわ」
と商売人らしい評価を下す始末である。
つい半年前まで、
「麻衣ちゃん、後ろでいいからね」
と言われていた少女が、である。
だが、最近の麻衣は、明らかに“変わった”。
ぽかぽかトリオの現場では、
「詩織さん、今は歌う前です」
「萌音さん、優しいのはいいけど、進行止まってます」
語尾は柔らかいが、内容は容赦ない。
しかも的確。
周囲は気づき始めていた。
――この子、もう“末っ子”じゃない。
実際、麻衣は末っ子ではない。
むしろ、長女である。
和歌山の実家には、
反抗期ど真ん中の中学生の弟がいる。
その弟が最近、学校でこう言いふらしているらしい。
「ウチのねーちゃん、戦隊ヒロインなんやで」
結果どうなったか。
「サイン書いてって言われるねん……」
麻衣は困った顔をしていた。
しかもその弟、
「適当に書いといたらええやん」
と言う。
だが麻衣は首を振る。
「それはあかんよ。名前もちゃんと聞いて、宛名も書くの」
その結果、
自宅の食卓にはサイン色紙が山積みになり、
母からは
「麻衣、みかん選別よりサイン書いてる時間の方が長いんちゃう?」
と突っ込まれる始末だ。
麻衣の一日は、だいたいこうだ。
早朝、みかん畑を手伝う。
まだ霧の残る斜面で、コンテナを運ぶ。
「腰、気ぃつけや」
と父に言われ、
「大丈夫やよ」
と笑って返す。
その後、
私鉄を乗り継ぎ、
二時間近くかけて大阪府内の大学へ。
南海電車に揺られながら、
教科書を開き、
幼稚園教諭の勉強。
「この子たち、どう声かけたらええかな……」
ノートには、
戦隊ヒロインのイベントで見た子どもたちの様子が、
そのまま活きている。
午後は授業。
夕方からはヒロインの仕事。
夜、帰宅してまたみかん。
正直、楽ではない。
だが、麻衣は言う。
「忙しいけど……楽しいです」
そんな麻衣の変貌に、
美月がある日、腕を組んで言った。
「なあ麻衣、最近ちょっと怖なってきたで」
「えっ!? なんでですか!」
「前は“助けてください〜”って顔してたのに、今はな……」
美月はニヤリと笑う。
「“はい、そこ違います”って言う顔や」
彩香も頷く。
「わかる。麻衣、優しいけど容赦ないわ」
当の本人は、
「そ、そんなつもりないです!」
と必死に否定するが、
周囲はもう気づいている。
――麻衣は、もう“守られる側”じゃない。
それでも、麻衣は変わらない部分もある。
ぽかぽかトリオの楽屋で、
詩織が転びそうになると、
真っ先に手を伸ばす。
萌音が迷っていると、
一歩前に出て一緒に考える。
そして、子どもたちの前では、
誰よりも低い目線で、
誰よりも真剣に向き合う。
「せんせー、また来てくれる?」
そう聞かれた時、
麻衣は少し照れながら答える。
「うん。絶対来るよ」
戦隊ヒロインとしても、
幼稚園教諭の卵としても、
白浜麻衣は、今も進化の途中だ。
末っ子属性は、もう返上。
だが、優しさだけは置いてきていない。
紀州の舞姫は、今日も一歩、前へ。
――次に驚くのは、たぶん、
まだ自分自身だ。




