ぽかぽかの代償――遥室長、週刊誌に包まれて赤面する
「……うまく、いってるわね」
都内の未就学児向けイベント会場。
客席から聞こえるのは、泣き声ではなく笑い声。
怖がる子も、帰りたがる子もいない。
ステージの上では、今日もぽかぽかトリオが、ぽかぽかしていた。
工作で和ませる萌音。
歌うたびに何かを落とすが声だけは天使の詩織。
そして、その二人を完全に掌握している最年少リーダー・麻衣。
その光景を、少し離れた場所で見つめていた遥室長は、静かに息を吐いた。
「……夢って、叶うものね」
隣に立つ隼人補佐官が、照れくさそうに笑う。
「念願でしたもんね。未就学児向けユニット。
正直、最初は“ゆるすぎません?”って思ってましたけど」
「思ってたでしょ?」
「はい。でも……これはこれで、強いですね」
二人は、少しだけ顔を見合わせる。
恋人かどうかは、本人たちも曖昧な距離感。
だがこの日は、ぽかぽかトリオの成功が、妙に気分を浮かせていた。
イベント終了後。
スタッフ解散。
ヒロインたちは各自帰路へ。
遥室長と隼人補佐官は、近くのブティックホテルへと入っていった。
――その瞬間。
「カシャッ」
乾いた音が、都会の夕暮れに溶けた。
二人は気づかない。
いや、正確には気づいていたが、まさか本気で撮られているとは思っていなかった。
翌週。
新橋・ヒロ室ミーティングスペース。
机の上に、見覚えのある二人の写真が置かれていた。
「お盛んなのは結構だが、
気ぃつけねぇとなぁ」
波田顧問が、ニヤニヤしながら言う。
誌面には大きく――
《戦隊ヒロイン推進室長、密会スクープ!》
遥室長と隼人補佐官、
完全に赤面。
「ち、ちがいます!
あれは打ち合わせです!」
「ええ、打ち合わせでした!」
「ブティックホテルで?」
「……雰囲気が落ち着くので」
「落ち着きすぎだろ」
即ツッコミ。
ミーティングスペースは、瞬く間にお祭り騒ぎになった。
「いやぁ、ご両人~」
と、美月が肘でつつく。
「お似合いやと思いますけどなぁ」
と、彩香がニヤニヤ。
「へぇ~、大人やねぇ」
と、綾乃が涼しい顔。
「遥室長、まさかそんな……」
と、萌音が純粋に驚き。
「……?」
と、詩織は状況を把握していない。
そして。
「どうしたんですか?」
と、陽菜が真顔で首をかしげた。
空気が、凍る。
誰も答えられない。
「えっと……」
美月が口ごもる。
「まぁ簡単に言うたら――」
彩香がストレートに言いかけた瞬間。
「陽菜にそんなこと言うたらあかん!」
美月が即座に止める。
「なんでやねん!」
「純粋やねん!」
「知る権利あるやろ!」
「まだ早い!」
子供じみた喧嘩が勃発。
机を挟んで、関西勢が騒ぎ出す。
そこへ、
静かに手を挙げたのが――ひかりだった。
「……落ち着きましょう。
遥室長が一番困ってます」
全員、ハッとする。
視線の先で、
遥室長と隼人補佐官は、
これまで見たことがないほど顔を赤くしていた。
「……すみません」
「公私の線引きが甘かったです」
その様子に、
逆に場が和む。
「珍し……」
「二人とも人間だったんですね」
誰かの一言で、笑いが起きる。
結局、記事は大事にならず、
「仲の良い同僚」として処理された。
だがその日以降、
遥室長と隼人補佐官は、
ヒロ室でやたらとからかわれる存在になった。
そして、ぽかぽかトリオは今日も元気に活動している。
詩織は歌い、
萌音は作り、
麻衣は仕切る。
遥室長は、その姿を見て思う。
――ぽかぽかしているのは、
ステージの上だけじゃない。
少し騒がしくて、
少し恥ずかしくて、
でも確かに温かい。
それが、
この戦隊ヒロインプロジェクトなのだ。




