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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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230/478

静かなる最強――飯能の森から来たDIY系ヒロイン・宮沢萌音

宮沢萌音は、戦隊ヒロインの中でいちばん“音がしない”。


叫ばない。

煽らない。

前に出ない。


それなのに、気がつくと全部うまく回っている。

それが、埼玉県飯能市が生んだ森ガール系ヒロイン――宮沢萌音である。


萌音は二十歳。

都内でも「お洒落な空気だけは一級品」と名高い私立大学に通う才女だ。

キャンパスは蔦が絡まり、レンガが似合い、

歩いているだけで映画のワンシーンみたいになる場所。


だが本人は、

「えっと……駅から近いので……」

という理由で選んだらしい。


私服はだいたい生成り。

ベージュ。

カーキ。

色味が森。


流行には疎いが、清潔感は異様に高い。

結果、**「狙ってないのにお洒落」**という一番ズルい位置にいる。


そんな萌音のアルバイト先は、

飯能市が誇る“おとぎ話系テーマパーク”。


森。

湖。

北欧っぽい建物。

妖精がいそうな空気。


ただし、本人は妖精ではない。


「着ぐるみの中、めちゃくちゃ暑いんですよ」

「夢より汗ですね」


現実派。


だが、子ども対応になると別人だ。

泣く子を前にすると、声を張り上げることもなく、

ただ目線を合わせて言う。


「……だいじょうぶ。ここ、森だから」


意味は分からないが、なぜか泣き止む。


その穏やかさは、生まれつきの性格によるものだった。

温厚。

争わない。

怒らない。


美月のようにキレず、

彩香のように噛みつかず、

麗奈のように斜に構えない。


代わりに、手を動かす。


萌音の異常さは、手先にある。


イベント会場で壊れたパネル。

「直るかな?」

と言われて五分後。


直っている。


ガムテープも釘も使っていない。

なぜか木片と紐で補強されている。


「……これ、DIY?」

「はい。森では普通です」


普通ではない。


ある日、控室の椅子がガタついた。

次の日、脚が一本増えていた。


「増やしたんですか!?」

「はい。余ってた木で」


余ってない。


その能力が、事件を起こす。


未就学児向けイベント。

待ち時間が長くなり、子どもたちがザワつき始めた。


そこで萌音が、

何気なく取り出したのが――風船。


五分後。


犬。

剣。

ハート。

なぜかカブトムシ。


色鮮やかなバルーンアートが次々と生まれ、

会場は一気に歓声。


「なにこれ!」

「すごーい!」

「おねえさん、神!」


神ではない。

森。


その様子を見ていた遥室長が、

静かに目を輝かせた。


「……未就学児向け、専用ユニット……いける」


こうして誕生したのが――

ぽかぽかトリオ。


メンバーは三人。


ダンス担当:白浜麻衣

工作担当:宮沢萌音

歌担当:藤原詩織


全員、温厚。

全員、声量控えめ。

全員、子どもが泣くと本気で心配する。


リハーサル風景は、

もはや戦隊ヒロインというより――


教育テレビ。


「じゃあ、手をたたいてみようか」

「つぎは、いろをえらぼうね」

「うた、いっしょにうたおう」


スタッフが言った。


「これ、そのまま番組いけません?」


誰も否定しなかった。


萌音は、前に出ることはない。

センターにも立たない。


だが、ぽかぽかトリオの舞台で、

一番子どもに近い位置にいるのは、いつも彼女だ。


風船を渡し、

壊れたおもちゃを直し、

泣いた子の背中をさする。


派手な必殺技はない。

だが、場の空気を“安全”にする力は最強。


美月が言った。


「……あの子、地味やけど」

彩香が続ける。


「一番ヒロイン向いとるかもしれんな」


森は、今日も静かだ。


だがその奥で、

とんでもない万能型ヒロインが、

ひっそりと育っている。


それが――

埼玉県飯能市の森ガール、

宮沢萌音なのである。

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