常夏は福島からやって来る ──戦隊ヒロイン非公式最強助っ人・木戸瑠海という生き物──
戦隊ヒロインの世界には、
正式メンバーでも、コーチでも、顧問でもないのに、
なぜか全員に一目置かれている存在がいる。
その名は――
木戸瑠海。
通称、るみねぇ。
書類上の肩書きは
「ダンス研修・外部講師(非常勤)」。
だが現場では、
「空気が重くなったら呼ばれる人」
「泣く前に笑わせる人」
「すみれコーチ不在時の最終兵器」
など、肩書きの数がやたら多い。
彼女が初めて戦隊ヒロインの研修に呼ばれたのは数年前。
ダンスの基礎指導という名目だったが、
その初日から様子がおかしかった。
「はいはい! 集合~!
はい、肩回して! 深呼吸!
難しい顔してる人、今すぐやめっぺ!」
初対面のヒロインたちは一瞬固まった。
――誰?
――先生?
――訛り強くない?
しかし、五分後には全員が笑っていた。
「今の動き? うん、硬い!
でも大丈夫だ! 温泉入ったと思えばいい!」
誰も温泉に入っていないのに、
なぜか身体が軽くなる。
それが、るみねぇだった。
彼女の本職は、
福島県いわき市にある超有名温浴施設のトロピカルダンサー。
南国風のステージ、
ヤシの木、
ミラーボール、
そして水着一歩手前みたいな衣装で踊る、
あの“観光名物”のど真ん中にいる人だ。
「昼は温泉、夜は常夏。
それが私の仕事だがんね!」
本人はあっけらかんと言うが、
実はかなりの実力派。
一日数公演、
年齢層も国籍もバラバラな観客を相手に、
必ず“楽しかった”と言わせる。
つまり――
「場を読む力」が桁違いなのだ。
そして特筆すべきは、
浜通り訛りが一切隠れない福島弁。
「無理すんなって!
体は正直だがんね!」
「今のステップ、ちっとズレだっぺ!
でもそれ、逆に味だ!」
最初は戸惑ったヒロインたちも、
気づけばその訛りが安心材料になっていた。
るみねぇは、
褒める。
突っ込む。
笑う。
そして感情を隠さない。
「今日のあんた、良かった!
正直に言うけど、昨日はダメだった!」
この喜怒哀楽がハッキリした人間味が、
戦隊ヒロインたちには心地よかった。
完璧を求められる現場で、
「ダメな日はダメでいい」と言ってくれる大人。
それが、るみねぇだった。
だから一部ヒロインには、
すでに“お馴染み”どころではない存在になっている。
「困ったら、るみねぇ呼ぼう」
「空気ヤバくなったら、るみねぇ案件」
「とりあえず、るみねぇに聞こう」
本人はその噂を聞いても、ケラケラ笑うだけ。
「えー? 私そんな偉くねぇぞ?
ただ踊って、喋ってるだけだっぺ!」
だが、彼女が現場に来ると、
必ず空気が軽くなる。
すみれコーチの厳しさが「骨」なら、
るみねぇは「血」と「体温」だった。
最近では、
北関東スリーアローズの臨時リーダーを任されるなど、
完全に“想定外の役割”まで背負わされている。
それでも彼女は言う。
「いいじゃん!
面白そうだがんね!」
――この人、細かいこと気にしない。
それが、るみねぇ最大の武器だった。
戦隊ヒロインの世界は、
厳しくて、複雑で、
ときどき息が詰まる。
だがそこに、
福島・いわきの常夏が混じると、
不思議とみんな深呼吸できる。
木戸瑠海。
戦隊ヒロイン非公式最強助っ人。
トロピカルで、訛ってて、感情むき出し。
そして今日もどこかで、
彼女はこう叫んでいる。
「はい笑ってー!
ヒロインはな、楽しくなきゃ意味ねぇんだ!」




