歌えば癒えて、乗れば絶叫――歌姫、助手席に座る
藤原詩織は、少し成長していた。
小児週末ケアセンターで歌ったあの日から、
「歌うこと=評価されること」ではなく、
「歌うこと=誰かの一日を軽くすること」だと理解したからだ。
その結果――
慰問活動にやたら前向きになった。
「今日も行きましょう。
歌えば、きっと元気になります」
言い切る詩織に、
湘南の毒舌クイーン・平塚美波はニヤリ。
「はいはい、成長成長。
じゃあ次、三カ所回るわよ」
大宮麗奈も即答。
「オッケー!
移動は私が運転ね!」
――その瞬間。
スタッフ全員が、一斉に視線を逸らした。
なぜなら、
戦隊ヒロイン界には二大・乗ったら終わり運転手がいる。
ひとりは「松本走り」の松本美紀。
もうひとりが、
大宮麗奈である。
ブレーキは意志。
カーブは度胸。
助手席は罰ゲーム。
「……誰か、助手席……」
沈黙。
「……じゃ、後ろ詰めます」
「……資料あります」
誰も動かない。
そのときだった。
「え、私ここでいいですか?」
天使が、笑顔で助手席に座った。
「詩織さん!?!?」
「命を粗末にしないで!!」
止める声を無視し、
詩織はシートベルトを装着。
「絶叫マシンみたいで楽しそうです~」
麗奈、即エンジン始動。
――発進。
「うわああああ!!」
悲鳴は後部座席から。
詩織はというと、
「わぁ……景色が流れていきます……!」
急カーブ。
「キャーーー!!」
スタッフ再悲鳴。
詩織、拍手。
「今の揺れ、
ビブラートみたいでした!」
美波が叫ぶ。
「音楽で例えるな!!」
信号待ちで麗奈が聞く。
「ねえ詩織、
怖くないの?」
詩織は首をかしげる。
「歌う前のドキドキに似てます。
あと、麗奈さんを信じてます」
一瞬、
麗奈のアクセルが優しくなった。
――一瞬だけ。
施設に到着。
スタッフは全員、
地面を踏みしめて確認する。
「……生きてる……」
「……助かった……」
詩織だけが満面の笑み。
「ありがとうございました!
また乗りたいです!」
美波が即断。
「ダメ。
あんた専用絶叫コースになる」
麗奈は誇らしげ。
「助手席適性、
この子が歴代トップだわ」
その日も、
詩織は歌った。
子どもたちは笑い、
空気は明るくなり、
スタッフは一名、酔った。
帰り道。
再び空く助手席。
詩織が手を挙げる。
「次もここでいいですか?」
全員。
「ダメ!!」
天使は首をかしげた。
――歌姫は成長した。
だが、
運転の危険性だけは理解できなかった。
そして今日もまた、
慰問活動は平和に、
移動は地獄に、
無事終了したのだった。




