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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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219/474

歌は逃げない――天使と毒舌が向かった場所

詩織は、少し自信を失いかけていた。


あの出来事以来、

自分の歌が、ここにいていい理由なのかどうか、

わからなくなっていた。


そんな詩織の肩を、

ある日、雑に――しかし迷いなく叩いた人物がいる。


「ちょっと、歌姫」


振り向くと、

湘南の毒舌クイーン・平塚美波だった。


「今週末、空いてる?」


「え……はい、一応……」


「じゃ、決まり。

一人で考え込むタイプはね、

動かさなきゃ腐るのよ」


詩織は、意味がわからないまま連れて行かれた。


向かった先は、

美波と大宮麗奈が“ライフワーク”として続けている

小児週末ケアセンター。


週末、

長期入院の子どもたちが

少しでも「普通の時間」を過ごすための場所だ。


玄関のドアが開いた瞬間――

空気が、変わった。


「来たわよー!

湘南の太陽と!」


「埼玉の華ですっ!」


美波と麗奈が入っただけで、

沈みがちな空気が一段階明るくなる。


子どもたちがざわめく。


「今日も派手だねー」

「キラキラしてるー!」


麗奈が即座に返す。


「キラキラは生まれつきだから仕方ないのよね~」


「それ自分で言う?」と美波が即ツッコミ。


すでに笑いが起きていた。


そして、詩織。


少し緊張しながら、

マイクを握る。


歌い始めた瞬間、

空気が、もう一段変わった。


柔らかく、

包み込むような声。


騒がしかった子どもたちが、

自然と静かになる。


車椅子の子も、

点滴台を引きながらの子も、

じっと耳を澄ませる。


美波が、ぽつりと呟く。


「……あーあ」


「なに?」と麗奈。


「これは反則。

天使が本気出してる」


歌が終わった瞬間、

拍手が起きた。


少し遅れて、

泣き出す子もいた。


詩織は慌てる。


「えっ、ごめんなさい、

嫌だった……?」


美波が即座に否定する。


「違う違う。

“効いた”だけ」


「ちゃんと、届いたの」


その後は、

トークと歌と小さなゲーム。


美波の毒舌は子ども向けに大幅マイルドだが、

それでも端々に漏れる。


「その顔、鏡見たことある?

可愛いから許すけど」


麗奈は相変わらず、

全力で盛り上げ役。


「はいはい、次の曲いくわよー!

大宮ふとん店提供じゃないからねー!」


最後は恒例。


美波が拳を上げる。


「よし!

次はみんなで――

大宮ふとん店、行くぞー!」


子どもたちが一斉に。


「オーー!!」


即座に麗奈。


「来なくていいからぁぁ!!」


爆笑。


会場は、

その日いちばん明るかった。


帰り道。


車の中で、

詩織がぽつりと言った。


「……今日は、楽しかったですね」


「みんな、早く病気が治って、

元気になるといいな……」


美波は、

ハンドルを握ったまま、

しばらく黙っていた。


そして、静かな声で言う。


「詩織」


「ここね」


「“治って帰る場所”じゃない子も、

来るところなの」


詩織は、言葉を失う。


美波は続ける。


「少しだけでも

“病人じゃない時間”を過ごすための場所」


「だからさ」


「今日の歌、

“元気になるため”じゃなくていい」


「“生きてる今”を

楽しくする歌で、十分」


詩織の胸が、

ぎゅっと締め付けられた。


知らなかった。

何も。


自分の歌が、

どんな場所に届いていたのか。


車窓に流れる夜景を見ながら、

詩織は小さく頷いた。


歌は、

逃げるためのものじゃない。


自分が立ち続けるためのものでもない。


誰かの時間を、

少しだけ温めるものなのだと。


後部座席で、

麗奈が間延びした声を出す。


「ねえ美波さん~

次の慰問さぁ、

詩織センターでよくない?」


「やめなさい、

この子、責任感重いの」


詩織は、

思わず笑った。


その笑顔は、

久しぶりに

迷いのないものだった。

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