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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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218/475

歌姫は辞めない――覚悟を賭けた人が、先に泣いた

新橋のヒロ室ミーティングスペース。

昼間の喧騒が嘘のように静かな時間帯だった。


丸テーブルの向こうに、

藤原詩織がちょこんと座っている。

背筋は伸びているが、膝の上で組んだ指先が、わずかに震えていた。


向かいには、すみれコーチ。

隣には遥室長。


詩織は一度、小さく息を吸い、

覚悟を決めたように口を開いた。


「……あの、今日は……

私から、お話があります」


二人は何も言わず、待った。


「私……

これ以上、皆さんに迷惑をかけるわけにはいかないと思って……」


言葉を選びながら、

詩織は続ける。


「活動を……

辞退させていただけないでしょうか」


空気が、止まった。


すみれコーチは、すぐには答えなかった。

ただ、詩織の目をまっすぐ見て、

静かに言った。


「……それは、残念ね」


詩織の肩が、びくりと揺れる。


「でもね」


すみれは、少しだけ微笑んだ。


「誰も、迷惑だなんて思っていない」


「あなたがここにいることで、

困っているメンバーは、一人もいないわ」


詩織は、きょとんとした顔で瞬きをした。


遥室長が、駿河弁混じりで、

柔らかく続ける。


「詩織さんねぇ、

あなたの歌を楽しみにしとる子どもたち、

ほんとに、たくさんおるだよ」


「それをね、

“自分が迷惑だから”って理由で

奪っちゃうのは……

ちょっと、違うんじゃないかなぁ」


詩織の目に、

じわっと涙が溜まる。


すみれコーチは、

そこで核心に踏み込んだ。


「澪、沙羅、理世の件については……

私が、もう一度やる」


「教育も、指導も、

全部、私が引き受ける」


「それでもダメだったら……

その時は」


一瞬、言葉を詰まらせ、

はっきりと言った。


「私が責任を取る」


詩織は、その言葉の重みを、

はっきりと感じ取った。


立場も、キャリアも、

すべてを賭ける覚悟の言葉。


「……私」


詩織は、ゆっくりと顔を上げた。


「もう一度、

頑張ってみます」


「歌うことしかできないけど……

それでも、いいなら」


すみれコーチは、

力強く頷いた。


「それで十分よ」


面談は、

静かな“めでたしめでたし”で終わった。


だが、

次の面談は、まったく違う空気だった。


同じ部屋。

今度は、

澪、沙羅、理世が並んで座っている。


すみれコーチと遥室長の表情は、

完全に「指導者の顔」だった。


「あなたたち」


すみれコーチの声は、低く、鋭い。


「何をしていたか、

分かっているわね」


沙羅は腕を組み、

理世は視線を逸らす。

澪だけが、ぼんやりと天井を見ていた。


遥室長が続ける。


「はっきり言うだよ。

卒業も、あり得た」


その言葉に、

沙羅と理世の表情が凍る。


「……冗談じゃないわ」


「私たちを切ったら、

ベイサイドトリニティは――」


「黙りなさい」


すみれコーチの一喝が飛ぶ。


「プライドが高いのは結構。

でもね」


「人を傷つけて守るプライドなんて、

何の価値もない」


理世は、

理屈で反論しようと口を開きかけ――

閉じた。


澪が、ぽつりと言う。


「……後援会、

どうするんだろ」


場の空気が、

一瞬だけ、ずれた。


遥室長が思わず咳払いする。


すみれコーチは、

深く息を吸った。


「ベイサイドトリニティを

作ったのは、私」


「競わせれば、

強くなると思った」


「……間違っていた」


そして、

声を震わせながら、続ける。


「無期限、活動停止。

再研修」


「それでも改善が見られなかったら……

私も辞める」


三人は、

初めて言葉を失った。


すみれコーチの目には、

涙が浮かんでいた。


「逃げ場は、ないわ」


「それでも立ち直れるかどうか――

それを、

あなたたち自身が選びなさい」


その覚悟に、

さすがの沙羅と理世も、

背筋を伸ばすしかなかった。


澪は、

ようやく真面目な顔で頷いた。


こうして、

ベイサイドトリニティは

分岐点に立たされた。


壊れたまま終わるのか。

それとも、

もう一度、やり直すのか。


その答えは、

まだ、誰にも分からない。


ただ一つ確かなのは――


歌姫は、辞めなかった。


そして、

守ると決めた大人が、

先に涙を流した、ということだった。

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