結束の理由が最悪なとき――ベイサイドトリニティ、静かな共犯
最初は、ただの不満だった。
出番が増えたり減ったりする。
名前が呼ばれない。
歓声が来ない。
それがいつしか、
向ける先を必要とする感情に変わっていった。
そして選ばれたのが――
ドジで、優しくて、
子どもたちにだけは異様に愛されている歌姫、藤原詩織だった。
「……また台本、間違えてますよ」
沙羅の声は冷たく、抑揚がない。
理世がすぐ続く。
「年上なんですから、ちゃんとしてもらえます?」
「子ども向けだからって、甘えてません?」
詩織は一瞬きょとんとして、
それから小さく頭を下げた。
「ごめんなさい……」
それで終わる。
怒らない。
言い返さない。
言い訳もしない。
――それが、三人には**“弱さ”に見えた**。
皮肉なことに、
それまで噛み合っていなかったベイサイドトリニティは、
詩織を標的にした瞬間、妙に足並みが揃った。
「誰かが言わないと」
「本人のため」
「甘やかされすぎなんですよ」
澪はぼんやりしながら、
ときどき、刺す。
「……詩織さんって、
何も考えてない顔してますよね」
それは冗談の皮をかぶった刃だった。
詩織は、羊のようだった。
声を荒げず、
反抗せず、
ただその場の空気を壊さないように笑う。
「私が悪いんです」
「ちゃんとできてなくて……」
その言葉が、
さらに三人を正当化させた。
――ほら、本人も認めてる。
年下が年上を追い詰める、歪な構図が、
誰にも止められないまま出来上がっていく。
最初に異変に気づいたのは、麗奈だった。
「……ちょっと、あんたたち」
控室の隅で、腕を組む。
「注意と嫌味は違うでしょ」
「詩織、あれ普通に凹んでるわよ」
だが返ってきたのは、
冷えた視線だった。
「注意してるだけです」
「仕事の話ですよ」
理世が淡々と言い切る。
澪は椅子にもたれたまま。
「……麗奈さんには、分かんないでしょ」
その一言で、
話は終わった。
小春も気づいていた。
美音も、違和感を覚えていた。
「最近、詩織さん元気ないよね」
「でも本人、全然否定しないし……」
声をかけても、
詩織は決まってこう言う。
「大丈夫です」
「私がちゃんとできてないから」
――それが一番、怖かった。
人気者への嫉妬は、
自分が“悪者”だと認めずに済む。
「指導」
「正論」
「チームのため」
その言葉の裏で、
結束は強まり、感情は濁っていく。
詩織の笑顔は、
誰かを安心させるためのものになり、
三人の結束は、
誰かを削ることでしか保てなくなっていた。
まだ、この時点では――
誰も「いじめ」という言葉を口にしない。
だが、
空気はすでに、
その一歩手前まで来ていた。




