人気調整の副作用――ベイサイドトリニティ、心が渋滞中
最近、ベイサイドトリニティの三人は、
イベント表を見るだけで胃が重くなっていた。
「白石陽菜 ※体調次第で変更あり」
この一行があるだけで、
澪・沙羅・理世の出番は伸びたり縮んだり、振り回される。
「……また増えてる」
「……いや、今度は減ってる」
「……もう、どっちかにして」
ただでさえ人気は低空飛行。
そこへ来て、年下の超人気者の体調に人生を左右される構図。
沙羅のプライドは、今日も富士山級に軋んでいた。
「なんで、私たちが調整役なの?」
「人気者の都合で動くって、おかしくない?」
理世も腕を組む。
「そもそも、あの子は“守られすぎ”なんですよ」
一方で澪は、控室の椅子に沈みながらぼんやり。
「……まぁ、人生そういう日もあるよねぇ」
(そして、時々だけ刺す)
「人気って、疲れるらしいよ?」
──絶妙に嫌味。
当然、矛先は白石陽菜に向かう。
「今日も短かったね」
「また私たちが埋める感じ?」
「……申し訳ないって、思わない?」
だが。
「え? 思うよ?」
「でも、みんなが一緒に出てくれるの、嬉しいなぁ」
──通じない。
宰相の血と、工作員の血を受け継ぐ鋼のメンタル。
嫌味も皮肉も、全部「善意」に変換される。
「……ほんと、面白くない」
「手応えゼロなんだけど」
澪だけが小さく呟く。
「……サンドバッグにもならないって、逆にすごいよね」
そして、
不満の捌け口は移動する。
次に狙われたのは――
年上・ドジ・でも人気者。
歌姫・藤原詩織。
「詩織さん」
「音大生なのに、今の段取り分からなかったんですか?」
沙羅の声は、妙に丁寧。
理世も追撃する。
「それ、基礎中の基礎ですよ?」
「感覚だけでやるの、そろそろ卒業したらどうです?」
詩織は一瞬きょとんとして、
それから柔らかく笑った。
「えへへ……ごめんなさい」
「でも、次はちゃんとメモ取りますね」
……怒らない。
反撃しない。
むしろ下手に出る。
それがまた、癇に障る。
澪がぼそっと。
「……才能ある人ほど、天然だよね」
これも、刺さる。
その空気を、周囲は見始めていた。
「……ちょっと、詩織さんにきつくない?」
「最近、当たり強いよね」
「陽菜ちゃんじゃなくて、矛先変わってない?」
美月が眉をひそめ、
彩香も珍しく言葉を選ぶ。
「嫉妬って、バレた瞬間に一番ダサなるで」
グレースフォースの二人は、静かだった。
「人気への感情が、歪んでる」
「自分の立ち位置が不安なんでしょう」
だが当の本人たちは、自覚がない。
「私たち、正論言ってるだけ」
「注意してあげてるの」
──それが、一番危ない兆候だと気づかないまま。
詩織は今日もにこにこしている。
陽菜は今日も揺れない。
そして、
フラストレーションだけが、
ベイサイドトリニティの中で、
静かに、確実に、膨らみ続けていた。
次に壊れるのは、
誰の感情なのか。
それはまだ、誰にも分からない。




