白いリボンは揺れない――制限付きヒロインと、揺れすぎる周囲
あの一件のあと。
白石陽菜のメディカルチェックは、目に見えて厳しくなった。
出演前は必ず二段階チェック。
数値が微妙なら即「短縮」、少しでも危険なら「休演」。
本人の希望?
一切、考慮されない。
「今日は五分だけです」
「今日は登場なしです」
それが当たり前になった。
当然、そのしわ寄せは他のヒロインたちに降りかかる。
まず、理解が早かったのは――
赤嶺美月、小春、そしてグレースフォースの館山みのり&杉山ひかり。
「まぁ、しゃあないやろ」
「陽菜ちゃんの命には代えられないよ」
「全体構成、私たちで調整しましょう」
このあたりはもう大人である。
問題は、その“外側”。
「え? なんで今日も陽菜ちゃん短いの?」
「また調整? 正直キツいんだけど」
麗奈が腕を組み、
彩香が播州弁でブツブツ言い、
山田真央は「なんでウチらが増えるん?」と首をかしげ、
河合美音は「人気商売って公平じゃないよね」と遠回しに刺す。
事情を知らない彼女たちにとっては、
特別扱いにしか見えないのだ。
その中で唯一、完全に別次元にいたのが――
藤原詩織。
「え? 短いの? じゃあその分、子どもたちに手を振ればいいんじゃないかなぁ」
誰も頼んでない謎の納得。
「……この人、ほんと何も考えてないな」
と、全員が同じ感想を抱いた。
だが、最も割を食っていたのは――
ベイサイドトリニティ。
澪、沙羅、理世。
もともと人気は低空飛行。
そこに出番調整で負担増。
不満は、限界を超えていた。
「また陽菜の分、私たち?」
「ほんと、人気者はいいよねぇ」
「体調体調って、正直どこまで本当なの?」
その矛先は、当然――
年下で、人気者で、何を言われても動じない陽菜へ向かう。
「今日も短かったねぇ」
「私たち、倍やってるんだけど」
「申し訳ないって気持ち、ある?」
三人に囲まれても、
陽菜はきょとんと首を傾げるだけ。
「え? あるよ?」
「でも、みんなが助けてくれてるから、嬉しいなって」
――完全に効いていない。
嫌味も、圧も、
全部ふわっと受け流す精神的図太さ。
それがまた、三人を苛立たせる。
「……ほんとムカつく」
「何この子」
「天然って、罪だよね」
陽菜は、気づかない。
本当に、何も。
そして、矛先は変わる。
次に狙われたのは――
藤原詩織。
年上。
ドジ。
でも子どもに大人気。
三人にとって、ちょうどいい履け口だった。
「ねぇ詩織さん」
「今日、台詞忘れてましたよね?」
「子ども向けだから許されてるだけじゃない?」
詩織は、にこにこしている。
「え? そうだったかなぁ?」
「でも、みんな笑ってくれたから、よかったよね?」
……効かない。
「……この人もダメだ」
「何なのこの空間」
「私たち、悪者みたいじゃん」
詩織は首をかしげ、
陽菜は微笑み、
二人の間には理解不能な平和が広がっていた。
その様子を、少し離れた場所から見ていた美月が一言。
「なぁ……あの二人、
嫌味が通じんの、最強すぎへん?」
彩香がため息をつく。
「敵に回したら一番厄介なタイプやな……」
グレースフォースの二人は、静かに頷いた。
「心が強いんじゃない」
「折れない形をしているだけ」
こうして、
出演が制限されても、
出番が減っても、
白いリボンの妖精は揺れなかった。
揺れていたのは、
周囲の感情とプライドだけ。
そして今日もまた――
誰かがため息をつき、
誰かが愚痴をこぼし、
当の本人は、何も気にせず笑っている。
それが、
白石陽菜というヒロインだった。




