落陽の向こう、まだ息づく光
関東近郊の山中にある、放棄された採石場。
赤錆びた重機と崩れかけた足場の中、小春はひとり立っていた。
風が強く、髪が頬に張りつく。
それでも彼女は、視線を逸らさなかった。
「やっぱり、あんたが来たのね。……ジェネラス・リンクの幹部、“鉄刃鬼”」
「ほう、小娘が一人とはな。仲間はどうした? ふん、捨てられたか?」
「言わせておけば……こっちは命賭けてやってんのよ。そんな軽口、もう一回言ってみなさいよッ!」
声に鋭さが増す。語尾が少し荒れた。
小春の内にある“熱”が、言葉を突き破り始めていた。
鉄刃鬼は、唸るように笑うと、長大な鋼の鉈を構えた。
「ここが貴様の墓場になると知れッ!」
「……冗談じゃないっての。まだ誰にも、何も渡してない……あたしの“正義”は、終わっちゃいないのよ!」
戦闘が始まった。
採石場の足場を駆け、砂煙を巻き上げながら、小春は一撃ごとに声を上げる。
「はァッ……てやんでぃッ!!」
気づけば、完全にべらんめえ口調になっていた。
訓練で叩き込まれた理論も技も、今はただ「守るべきもの」のために突き出す拳に集約される。
幾度も打ち合い、互いに傷だらけになったそのとき——
崖の縁に追い詰められた鉄刃鬼に、小春が渾身の突きを繰り出す。
その一撃は、敵の面頬を砕き、勝敗を決した……はずだった。
しかし。
「……ッ!?」
崖の地盤が、わずかに揺れた。
次の瞬間、小春の足元が音を立てて崩れ落ちる。
「……え?」
一瞬の無音。
次いで、小春の身体が土砂と共に崖下へと吸い込まれていった。
「こォれだから、詰めが甘ぇんだよ! 小娘がッ!! はーっはっはっはっ!!」
勝ち誇る鉄刃鬼の高笑いが、採石場の空に響いた。
しかし。
誰も気づかなかった。崖下の影、倒れた岩の隙間に――
白いロングブーツのかかとが、確かに引っかかっているのを。
そして、吹き上がる風の中、かすかに聞こえた声を。
「……ちくしょう、こんなんじゃ……まだ終われねぇっての……」
小春、消息不明。
だが、隊の誰もが口を揃えて言う。
「小春が…こんなことで死ぬはずない。あいつ、しぶといんだから」
風が吹き抜ける採石場。
崖下の闇に沈んだ赤橙の光は、まだ息づいている――。




