天然は最強スキル――白いリボンの妖精、今日も先輩を篭絡中
戦隊ヒロイン界には、不文律がある。
「白石陽菜には逆らうな」――ではない。
**「白石陽菜に甘くなるな。無理だから」**である。
大人気戦隊ヒロイン、白いリボンの妖精・白石陽菜。
舞台に立てば子どもが泣き止み、大人が財布を開き、
ヒロイン仲間ですら「かわいい……」と語彙を失う。
しかも彼女、気立てがいい。
誰にでも懐く。距離感ゼロ。
初対面の先輩にも、
「〇〇先輩! 今日も素敵です!」
と屈託のない笑顔で突撃する。
――先輩ヒロイン、即落ち。
「陽菜ちゃんはね、守らなきゃいけないのよ」
「いや、私の方が守られてる気がするんだけど……?」
そんな会話が日常だ。
ただし、致命的な弱点がある。
世間知らず。しかも重症。
コンビニで「レジ袋って、持って帰っていいんですか?」
自動改札で「このピッてするの、毎回買うんですか?」
タクシーで「お馬さんいないんですね……」
美月と彩香が黙っているわけがない。
「陽菜、世の中ナメすぎや」
「ほんまやで、箱入りにも程があるわ」
すると陽菜、
むくっと頬を膨らませ、
白いリボンを揺らしながら一歩後ずさる。
「……ちゃんと、知ってますもん」
その“知ってる”の定義が怪しい。
この小動物が威嚇してるみたいなムクれ方が、
また可愛い。
美月がぼやく。
「腹立つのに可愛いって、どういうバグやねん」
彩香が頷く。
「計算ちゃうんが、余計タチ悪いわ」
――結果、二人とも甘やかす。
そんな陽菜を、冷静にフォローする存在がいる。
信州の白衣の天使、松本美紀。
「陽菜ちゃん、それはですね――」
と、常に優しく、常に的確。
一般常識、医療知識、社会知識、すべて網羅。
「美紀ちゃんがいると安心する」
これはヒロイン全員の総意だ。
ただし、全員が条件を付け加える。
「ハンドルを握らなければ」
知的で穏やかで看護師の鑑。
だが運転席に座った瞬間、
信州の山道が育てた“松本走り”が解放される。
「大丈夫です、見通し良いので」
その言葉と同時に、
車内の魂が一段上の次元へ飛ぶ。
陽菜は後部座席でにこにこ。
「美紀ちゃん、かっこいいね!」
今日も戦隊ヒロインは平和だ。
天然が場を和ませ、
天使が知性で支え、
誰かが運転で絶叫する。
白いリボンの妖精は、
知らぬ間に今日も仲間を虜にしている。
――無自覚、最強。




