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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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208/474

白衣の天使、シフトはDレンジ――助手席が絶叫する信州最速伝説

白いリボンの妖精・白石陽菜を守る守護者は二人いる。

ひとりは岡山の新星、循環器医・藤崎紗絢。

そしてもうひとり――信州が生んだ白衣の天使、看護学生・松本美紀。


普段の美紀は、優しさの擬人化だ。

声は柔らかく、所作は丁寧。

バイタルチェックは正確無比、患者に寄り添う姿勢は教科書に載せたいレベル。

ヒロイン仲間からも「美紀ちゃんがいると空気が落ち着く」と絶大な信頼を集めている。


――ここまでが、A面。


問題は、B面だ。


鍵は、ハンドル。

シートベルトを締めた瞬間、天使は翼を畳み、獣になる。


ある日の移動。

イベント会場へ向かうワゴン車。

運転席に座る美紀は、穏やかな笑顔でミラーを合わせていた。


「皆さん、シートベルト大丈夫ですか?」

「はい……(なぜか声が小さい)」

「じゃあ、出ますね〜」


その瞬間――

Dレンジ、アクセル、床。


車内の空気が圧縮される。

窓の景色が“流れる”ではなく“消える”。


「ちょっ、美紀ちゃん!? いま制限――」

「大丈夫です! ここ、見通し良いですから!」


信州育ちの合理主義。

山道で鍛えられた判断力。

そして伝説の松本走り。


コーナーは“減速して曲がる”ものではない。

**“曲がりながら考える”**ものだ。


助手席のヒロインは、無言で祈り始める。

後部座席では、誰かが静かに遺書の下書きを始めていた。


戦隊ヒロイン界には、運転荒い選手権が存在する(非公式)。

常に優勝候補なのが――大宮麗奈。


だが最近、噂が変わった。


「麗奈さんより危険なの、いるよね?」

「……美紀ちゃん」


二人の共通点は、笑顔で踏むところだ。

そして違いは、理屈が正しいところ。


「安全です。タイヤのグリップ、まだ余裕あります」

「理屈が一番こわいんよ……」


結果、戦隊内で暗黙の了解が生まれた。

「麗奈と美紀の助手席には、座らない」


くじ引きで決めようものなら、

最下位決定戦が地獄のデスゲームになる。


ある日、誰かが言った。


「美紀ちゃんの助手席ってさ……」

「うん?」

「山梨県のテーマパークの絶叫コースターより怖くない?」


全員、即座に頷いた。


あのコースター(高●車)は、

“怖いけど安全”が売りだ。

だが美紀の助手席は、

“安全だけど怖い”。


通常運転でGがかかる。

カーブで内臓が置いていかれる。

ブレーキのタイミングは、信州の神のみぞ知る。


しかも本人は言う。


「え? そんなに揺れました?」


――揺れた。

魂が。


唯一、この問題に真正面から立ち向かう者がいる。

伊吹真白。

トラックドライバー。

安全輸送第一主義。

“無事故は誇り”の人。


普段は、二人は仲が良い。

どちらも温厚。

どちらも人の命を預かる仕事。


だが――運転の話題になった瞬間、空気が変わる。


「美紀ちゃん、あの加速はダメだよ」

「え? 流れに乗ってただけです」

「流れは“読む”もので“作る”ものじゃない」

「でも後ろ詰まってましたし」

「詰まらせたの、君だよ!」


車内、静まり返る。


二人の目が合う。

火花が散る。

安全vs効率、正面衝突。


「安全第一です」

「効率も安全の一部です」


――この議論、終わらない。


最終的に、紗絢がまとめる。


「二人とも、降りて。私が運転する」


全員、拍手。


そんな騒動の裏で、

白いリボンの妖精・陽菜は、後部座席でにこにこしている。


「美紀ちゃんの運転、ちょっと怖いけど……」

「けど?」

「ちゃんと守ってくれてる感じがする」


美紀は、照れる。


「当たり前です。陽菜ちゃんは、私が守りますから」


――天使は、確かに天使だ。

ただし、ハンドルを握らなければ。


今日もどこかで、

助手席が悲鳴を上げ、

後部座席が祈り、

運転席だけが穏やかに微笑む。


白衣の天使は、

止まらない。

減速もしない。


Dレンジのままで。

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