白衣の天使は止まらない ――白いリボンを守る、もう一つの鼓動
白石陽菜のそばには、必ず二人の守り手がいる。
ひとりは、
岡山が誇る若き循環器医、藤崎紗絢。
そしてもうひとり――
静かに、だが確実に陽菜を支え続ける少女がいる。
松本美紀。
戦隊ヒロイン最年少にして、看護学生。
そして、陽菜と同じ年の、無二の親友だ。
美紀の出身は、長野県松本市。
北アルプスの裾野、山あいに点在する小さな集落。
実家は地域医療を支える小さなクリニック。
父は医師で、救急車が来れば深夜でも白衣を羽織り、
往診鞄を手に家を飛び出していく人だった。
幼い美紀は、
その背中を何度も見送ってきた。
「お父さん、また行くの?」
「うん。待ってる人がいるからな」
医療は、特別なものじゃなかった。
日常の中にあって、
誰かの不安を引き受ける仕事。
気がつけば美紀は、
注射器の名前も、心電図の波形も、
自然と覚えていた。
「看護師になりたい」
それは、夢というより、流れだった。
看護学生としての美紀は、優等生だった。
教科書で学んだ知識を、
実習先で即座に使える。
観察力が鋭く、
患者の変化に誰よりも早く気づく。
指導看護師たちは口を揃える。
「この子は、現場向きだ」と。
その実力は、
岡山の新星・藤崎紗絢の目にも、すぐに留まった。
「美紀、これお願いできる?」
「はい、先生。バイタル取って、ログ更新しますね」
息が合う。
説明はいらない。
幼少期から医療に触れてきたからこそ、
紗絢の判断の“意味”が、感覚で分かる。
だから紗絢は、
陽菜のサポートを美紀に任せた。
「この子なら、任せられる」
美紀の看護は、いつも穏やかだ。
声を荒げない。
急かさない。
ただ、隣にいる。
「大丈夫ですよ。ここ、少し冷たいですね」
「陽菜ちゃん、今は無理しないで」
患者の目線に合わせ、
手の温度を確かめるように触れる。
それは、まさに白衣の天使だった。
戦隊ヒロインプロジェクトに参加してからも、
その姿勢は変わらない。
イベントステージの楽屋では、
陽菜の体調チェックを担当。
「脈拍、ちょっと速いね。深呼吸しよっか」
「美紀ちゃん、先生みたい」
「将来そうなる予定だからね」
同い年の二人は、
姉妹のようでもあり、
親友そのものだった。
だが、そこに百合的な甘さはない。
依存もない。
あるのは、信頼だけ。
「倒れたら、私が支える」
「支えられたら、また立つ」
そんな関係だった。
あるイベントの日。
ステージの最中、客席で高齢者が倒れた。
ざわつく会場。
スタッフが駆け寄るより早く――
美紀は走り出していた。
「AED、持ってきてください!」
迷いはなかった。
呼吸確認、脈拍確認、
的確な指示。
AEDを装着し、
周囲を下がらせる。
――一命は、取り留められた。
後日、取材で聞かれた美紀は、
少し照れたように答えた。
「戦隊ヒロインとして、
当然のことをしただけです。
それより……助かって、本当に良かった」
完璧すぎるコメントに、
現場は一瞬、静まり返り、
そして拍手が起きた。
そんな美紀にも、
唯一の“問題点”がある。
それは――運転。
ハンドルを握った瞬間、
人格が変わる。
いわゆる「松本走り」。
山道で鍛えられた、
容赦のないアクセルワーク。
「美紀ちゃん、ちょっとスピード……」
「大丈夫です! このカーブ、行けます!」
車内のヒロインたちが悲鳴を上げる中、
美紀だけは涼しい顔。
この“問題”は、
次なる騒動の火種になるのだが――
それは、また別の話。
白いリボンの妖精・白石陽菜。
その光を守るのは、
医師の知性と、
看護学生の優しさ。
松本美紀。
白衣の天使は、今日もそっと寄り添い、
そして――アクセルは、踏み込む。
止まらない鼓動のそばで。




