その鼓動を止めるな ――白い妖精を守る赤き医師・藤崎紗絢
白石陽菜は、不思議なヒロインだった。
体調によっては、
ステージに立てる時間が短くなることもある。
ときには、出演そのものが中止になる日さえある。
それでも――
グッズ売り上げは常に上位。
人気戦隊ヒロイン投票でも、いつも名前は上の方にある。
「会えなくても、応援したい」
「出てくれるだけで嬉しい」
そんな声が、老若男女を問わず集まる。
白いリボンの妖精・白石陽菜。
その輝きは、時間の長さでは測れなかった。
だが、その光の裏側には、
常に一つの現実がある。
心臓に、爆弾を抱えている。
その事実を真正面から受け止め、
誰よりも近くで支え続けているのが――
循環器医・藤崎紗絢だった。
藤崎紗絢。
岡山医科大学附属病院・循環器内科。
国内屈指の名医と名高い藤崎恒一教授の姪であり、
同時に、最も厳しく鍛えられた愛弟子。
若くして難症例を任され、
オペ、往診、研究、後進指導――
すべてを高水準でこなす“岡山の新星”。
その彼女に、波田巌蔵が声をかけた。
「命を預けるなら、腕も覚悟も一流じゃねぇとな」
恒一とともに、
世界最先端の循環器医療を投入し、
陽菜の命を支えるチームが組まれた。
それは、
**国家レベルで守るべき“ひとつの希望”**だった。
紗絢の日常は、凄まじい。
朝、岡山で回診。
昼、オペ。
夕方、カルテと論文。
夜、イベントがあれば新幹線で上京。
陽菜のメディカルチェックを行い、
短いステージを見届け、
終演と同時に岡山へとんぼ返り。
仮眠は移動中。
食事は簡素。
それでも彼女は弱音を吐かない。
「医師は、患者より先に倒れちゃいけませんから」
そう言って、笑う。
忙しさの合間を縫って、
国内外の学会にも必ず顔を出す。
最新のデバイス。
新しい治療指針。
世界で今、何が起きているのか。
すべては――
次に陽菜の心臓が苦しんだとき、
“まだ手がある”状態でいるため。
それが、藤崎紗絢の戦い方だった。
だが、彼女を動かしているのは、
義務でも、命令でもない。
控室で、
白いリボンを結び直す陽菜を見たとき。
不安を隠して笑う、その横顔を見たとき。
「今日も、がんばるね」
その一言に、
胸の奥がきゅっと締めつけられる。
――医師としてではなく、
ひとりの人間として、応援したい。
その想いが、
紗絢を止まらなくさせていた。
長身で、端正な顔立ち。
晴れの日の岡山を思わせる、屈託のない笑顔。
学会で鍛えられたプレゼン能力は、
ステージでも遺憾なく発揮される。
「今日はね、心臓のお話を少しだけ」
難しい話を、やさしく。
怖くならないように、明るく。
観客は頷き、
「この先生の話、分かりやすい」と言う。
最近では、
戦隊ヒロインとしてステージに立ち、
喝采を浴びることにも、
確かな手応えを感じていた。
医師として。
ヒロインとして。
守る側として、光の中に立つ存在。
ステージ袖で、
紗絢は今日も陽菜の脈を取る。
「……よし。行けるわ」
「ありがとう、紗絢先生」
「先生、は余計。今日は仲間でしょ」
二人は笑い合う。
白いリボンが揺れ、
赤いジャケットが光を受ける。
――その鼓動を、止めるわけにはいかない。
それが、
藤崎紗絢という医師の、
そして戦隊ヒロインの、
揺るがぬ信念だった。




