誰にも触れさせない――白石陽菜・白いリボン伝説
白石陽菜のトレードマークは、誰が見ても一目でわかる。
黒く艶やかな髪を高く結ったポニーテール。
そして、その根元で静かに揺れる――白いリボン。
それは衣装でも、演出でもない。
ましてや流行りのアクセサリーでもなかった。
陽菜にとって、あの白いリボンは
「身につけるもの」ではなく、「生きる理由」だった。
戦隊ヒロインとして大人気になった今でも、
この白いリボンには厳格なルールがある。
ヘアメイク担当も、スタイリストも、
どれだけ腕利きであろうと――触れてはならない。
理由を知らぬ者は、最初こう思う。
「人気者の特権か」
「面倒なこだわりだな」と。
だが、それを破った者は、例外なく“伝説”を目撃する。
ある日。
未就学児向けのふれあいイベント。
陽菜はいつも通り、子どもたちと目線を合わせ、
しゃがみ込み、手を振り、名前を呼び、
まさに“理想のお姉さん”だった。
そのときだ。
後ろから、
わんぱく盛りの悪ガキが――
ぐいっと、陽菜のリボンを引っ張った。
次の瞬間。
「……やめて。」
声は低く、短く、はっきりと。
空気が、凍った。
いつも穏やかで、子ども大好きな陽菜が、
烈火のごとく振り返ったのだ。
「それはね、触っちゃいけないの!」
悪ガキ、大号泣。
会場、騒然。
スタッフ、蒼白。
その修羅場を救ったのは、
グレースフォース・館山みのりだった。
「こらこら~、それはね、
陽菜ちゃんの“だいじだいじ”なんだよ~?」
みのりの神フォローで場は和み、
悪ガキは鼻水をすすりながら退場。
だが――
陽菜は、その場を離れたあと、しばらく言葉を失っていた。
なぜ、そこまで頑ななのか。
理由は、毎朝の静かな時間にある。
陽菜のポニーテールを結ぶのは、
家政婦・杉本恵。
誰よりも丁寧に、
誰よりも慎重に。
かつてその役目は、養母・佳代が担っていた。
「今日はね、ちょっと高めに結びましょ」
そう言って、微笑みながら。
だが佳代は、もういない。
その朝から、
恵が引き継いだ。
何も語らず、
ただ、同じ位置で、同じ強さで。
「……よし。今日も綺麗ですよ、陽菜さん」
「ありがとう、恵さん」
その一言に、
すべてが詰まっている。
白いリボンは、
亡き養母の手の温もりであり、
実母が“母と名乗れないまま注ぐ愛”の証なのだ。
だから、誰にも触らせない。
触れさせてしまえば、
その想いが崩れてしまう気がするから。
ステージの上で、
白いリボンが揺れる。
観客は知らない。
あの小さな結び目に、
どれほどの祈りと涙が込められているのかを。
だが、陽菜は今日も笑う。
白いリボンを胸に、
ヒロインとして、
少女として。
――そして、ここで語り部は静かに締めくくる。
人はなぜ、
触れてはならぬものに、
手を伸ばしてしまうのか。
だが、白石陽菜の白いリボンは、
触れるためにあるのではない。
守るために、結ばれているのだ。
次回、
その結び目がほどける日は来るのか。
それとも――
永遠に、白く揺れ続けるのか。
それを知る者は、
まだ誰もいない。




