白いリボンはほどけない ――十五歳、白石陽菜という“境界線”――
白石陽菜、十五歳。
白いリボンが朝の光を受けてきらめくたび、その一日が始まる。
「陽菜、じっとしてなさい。今日はね、いつもより少し可愛く結んであげるわ」
鏡の前で優しく微笑むのは、養母・白石佳代だった。
上品な指先で艶やかな黒髪をすくい上げ、慣れた手つきで高い位置のポニーテールにまとめる。
そして、純白のサテンリボンを二度、きゅっと結ぶ。
「はい、できたわ。今日も“白い妖精”の出来上がりね」
「ありがとう、お母さま!」
陽菜は嬉しそうにその場でくるりと回る。
ポニーテールがふわりと舞い、白いリボンが朝の光を反射して、きらりと輝いた。
――このリボンは、陽菜にとって“お守り”だった。
生まれつきの病のせいで、時折、胸が苦しくなる日がある。
息が浅くなり、世界が遠のく感覚に襲われることもあった。
けれど、この白いリボンを結んでもらうと、不思議と呼吸が整う。
「お母さまが結んでくれたから、今日も大丈夫」
そう信じていた。
だからこそ――誰にも触らせたくなかった。
放課後。
女子校の教室は、いつものように明るい声で満ちていた。
「ねえねえ、陽菜ちゃんのリボン、ほんと可愛い! どこで買ったの?」
「内緒。でもね、お母さまが選んでくれたの」
陽菜は柔らかく笑い、髪を揺らす。
その仕草ひとつで、教室の空気が少し華やぐ。
そのときだった。
悪戯好きのクラスメイトが、何気なく手を伸ばした。
「ちょっとだけ、触ってもいい?」
白いリボンに指先が、かすかに触れた――その瞬間。
「……やめて」
声が、低く落ちた。
教室の空気が、凍りつく。
そこに立っていたのは、いつもの柔らかな陽菜ではなかった。
瞳の奥に、怒りと、言葉にできない深い悲しみを宿した少女。
「そのリボンは……誰にも、触らせないの」
静まり返る教室。
悪戯をした少女は、はっと息を呑み、涙目で俯いた。
「……ごめん」
陽菜は一瞬、目を伏せ、深く息を吸う。
そして、何事もなかったかのように微笑んだ。
「大丈夫だよ。ちょっとびっくりしちゃっただけ。
ね、次は私がピアノ弾くね」
そう言って歩き出すその背中は、いつもと変わらないはずなのに――
どこか、遠く感じられた。
その様子を見守っていた佳代の胸が、ちくりと痛む。
白いリボンは、ただの髪飾りではない。
病と共に生きる陽菜の“生きる証”であり、
そして――家政婦・杉本恵へとつながる、目に見えない絆でもあった。
そのリボンをほどかれることは、
陽菜にとって、世界の秩序そのものを乱されることに等しい。
やがて――
この「白いリボンの妖精」という呼び名が、
戦隊ヒロイン・白石陽菜誕生の象徴となることを、
このとき、まだ誰も知らなかった。
それは、
光と影の境界線に立つ少女が、
自らの運命へと踏み出す、静かな前兆だった




