白いリボンが舞い降りた日――戦隊ヒロイン史上最高の美少女・白石陽菜
ヒロ室に、ほんの一瞬だけ風が通った。
誰かがドアを開けた、そのだけのはずなのに、空気の密度が変わった。
「白石陽菜です。よろしくお願いしますっ!」
はじけるような声。
艶やかな黒髪を高めのポニーテールにまとめ、そこに結ばれた白いリボンが、まるで意思を持っているかのように揺れる。
色白で小柄、整いすぎた小顔に、年齢不相応なほど完成されたバランスの身体。
そして――控えめに見えて、どう考えても“控えめではない”胸元。
その場にいたヒロイン全員が、ほぼ同時に思った。
(……負けた)
白石陽菜、十八歳。
神奈川県相模原市出身。
神奈川県内でも“お嬢様率が異様に高い”ことで知られる女子大学に通う現役女子大生だ。
実家は地元では知らぬ者のいない資産家。
門から玄関までがやたら長く、庭なのか森なのか分からない緑に囲まれた、いわゆる「リアルにあるんだ……」と言われるタイプの邸宅に住んでいる。
本人はその事実をまるで気にしていないが、聞かされた側はだいたい黙る。
しかし、そんな背景を知らなくても、陽菜は圧倒的だった。
元気よく、ハキハキと話す。
姿勢がいい。
人の目をまっすぐ見る。
笑顔に一点の曇りもない。
作られた“アイドル的完璧さ”ではない。
天然で、無自覚で、それでいて致命的に強い。
「先輩、これ重いですか? 持ちますよ!」
気づけば誰かの荷物を持ち、
「すごいですね! それどうやるんですか?」
と目を輝かせ、
「えへへ、楽しいです!」
と心底嬉しそうに笑う。
距離の詰め方が異常にうまい。
壁を作らない。
上下関係を感じさせない。
なのに礼儀は完璧。
先輩ヒロインたちは直感した。
――これはまずい。
人気が出る。いや、爆発する。
戦闘訓練の見学中も、陽菜は静かに見ているだけだったが、
その視線は驚くほど鋭く、
何かを必死に覚えようとする真剣さがあった。
「早く、皆さんのお役に立ちたいです」
その言葉は、社交辞令でも気負いでもなかった。
本心だと、誰もが分かってしまうほど、まっすぐだった。
だが――
その完璧すぎる笑顔の奥に、
ほんのわずかな“影”があることに気づいた者は、まだ少ない。
ふとした瞬間、胸元を押さえる仕草。
一瞬だけ遠くを見る目。
誰もいないはずの場所に向かって、無意識に微笑む癖。
陽菜自身は何も語らない。
語れないのか、知らないのか、それとも――。
白石陽菜は、
戦隊ヒロイン史上最高の美少女であり、
白いリボンの妖精と呼ばれる存在であり、
そして同時に、あまりにも多くの秘密を抱えた謎の少女だった。
彼女がなぜここにいるのか。
なぜ、守られるように育てられてきたのか。
なぜ、戦う力を秘めているのか。
その答えは、まだ誰も知らない。
――本人さえも。
白いリボンが揺れるたび、
運命もまた、静かに動き出していた。
次回、
白石陽菜・出生の秘密編へ続く。




