ヒロイン爆誕の裏で鉄板炎上――行列が止まらない“てっぱん坂井騒動記”
門真市のイベントで颯爽とデビューした坂井まどかは、
その後も実に安定していた。
前に出すぎず、引きすぎず。
美月と彩香が揉めれば自然に間に入り、
綾乃がはんなりまとめる前に空気を整えてしまう。
「新人やのに安心して見てられるな」
「なんかもう、昔からおった感じや」
現場スタッフの評価はうなぎ登り。
気づけば、まどかは早くも人気戦隊ヒロインの仲間入りを果たしていた。
――そして、その余波は
実家に直撃した。
大阪下町、私鉄沿線。
家族経営のお好み焼き屋「てっぱん坂井」。
これまでは
「ネギ焼き美味いで」
「おばちゃん元気やなぁ」
そんな地元と常連に愛される、こぢんまりした店だった。
が。
「……なんで並んどるん?」
開店前、父が首をひねる。
母がのれんを出す前から、列がある。
「テレビ出たん?」
「出てへん!」
「ほな何や!」
理由はひとつ。
戦隊ヒロイン坂井まどかの実家だから。
店内は一変した。
壁には、
戦隊ヒロイン姿のまどかの写真。
イベント限定ブロマイド。
なぜか父が額縁に入れて飾った研修修了証のコピー。
祖父が誇らしげに言う。
「これがウチの孫や」
祖母が続ける。
「ネギ焼きより先に説明してもうてるけどな」
しかし問題は――
家族全員、行列に慣れていないことだった。
「注文まとめて言われても覚えられへん!」
「鉄板足りへん!」
「ネギ切る手が追いつかん!」
店内は軽いパニック。
そこへ常連のオッサン。
「まどかちゃん、えらい遠い存在になってもうたなぁ」
「昔はなぁ、このカウンターの下で宿題してたんやで」
隣の客が食いつく。
「え、あのヒロインが?」
「せや。
その頃はソースこぼして泣いとったわ」
まどかはその話を後で聞き、
布団に顔を埋めて悶絶した。
「それは言わんでぇぇ……」
それでも。
忙しくても、
大変でも、
家族はみんな楽しそうだった。
「まどか、ちゃんとご飯食べてるか?」
「無理すんなよ」
「写真増えたから貼っといたで」
まどかは少し照れながら、
でもはっきり言った。
「ありがとう。
……ここがあるから、頑張れる」
その夜も、てっぱん坂井は満席。
鉄板は熱く、
話題は尽きず、
ネギは飛ぶ。
ヒロインが生まれた裏で、
下町のお好み焼き屋は今日も炎上中。
――ただし、
幸せな炎上である。




