企業城下町で初陣――新人の一言が鉄板を揺らした日
大阪の東側。
巨大な工場と社宅群が街の記憶として残る、いわゆる“ものづくりの城下町”。
門真市の大型ショッピングモールの吹き抜けステージには、
「西日本戦隊ヒロイン大集合!」という、昭和感あふれる横断幕が掲げられていた。
ステージ袖。
坂井まどかは、静かに深呼吸をしていた。
「……思ったより、ほんまに人多いな」
「せやろ!
ここはな、家電と下町魂の街や!」
赤嶺美月が謎に胸を張る。
即座に彩香が噛みつく。
「はぁ?
あんたがドヤるとこちゃうやろ。
今日の主役はウチら全員や」
「ほな誰が先しゃべるねん!」
「ウチや!」
——開演三十秒前。
いつものやつが、始まった。
「ちょっと待って」
穏やかで、しかし芯のある声。
坂井まどかだった。
「最初は司会が入る。
二人は二番手と三番手。
さっき確認したよね?」
美月と彩香、同時に沈黙。
「……あ、そやった」
「……言われた気する」
綾乃が小さく微笑む。
「さすがやわ。
もう慣れてはる」
——開幕。
まどかは中央に立ち、落ち着いた声で語りかけた。
「今日は門真市にお越しいただいてありがとうございます。
この街は、昔から“作る力”で日本を支えてきました」
観客の反応が、ふっと和らぐ。
美月が調子に乗りかけると、
まどかが自然に話をつなぐ。
彩香が前に出すぎると、
一言で流れを整える。
新人とは思えぬ安定感。
客席の空気は、完全に掴まれていた。
イベント終盤。
まどかはマイクを持ち、少しだけ照れたように言った。
「えーと……
個人的なお知らせなんですけど」
美月の背筋がピンと伸びる。
「大阪の下町で、
家族でお好み焼き屋やってます」
「今!?」と彩香。
「“てっぱん坂井”って言います。
ネギ焼きが自慢です」
会場、どよめく。
「場所は私鉄沿線で——」
「そこまでぇぇぇ!!」
美月が全力で止めに入るが、
すでに遅かった。
イベント終了後のてっぱん坂井。
常連、観光客、イベント帰りの家族連れが押し寄せ、
店内は戦場。
「お父ちゃん!鉄板あかへん!」
「お母ちゃん!ネギ足らん!」
「おばあちゃん!客としゃべりすぎ!」
祖父が笑いながら言う。
「ええやないか、祭りや祭りや!」
鉄板はフル稼働。
ネギは飛ぶ。
コテが舞う。
店内は大爆笑と鉄板の音に包まれていた。
——新人の初イベント。
結果は大成功。
そして、
街一番のお好み焼き屋は、てんやわんやになった。
浪速のバランサー、
恐るべし。




