鉄板の前で人生がひっくり返る夜――坂井まどか、戦隊ヒロインにスカウトされる
大阪市内、下町情緒が色濃く残る私鉄沿線。
高架の音が一定のリズムで響く商店街の一角に、暖簾を掲げる小さな店がある。
お好み焼き屋「てっぱん坂井」。
派手さはない。
だが、いつ来ても満席だ。
理由は明確だった。
ネギ焼きがうまい。
そして――全員しゃべりすぎ。
父は鉄板を返しながら客と雑談し、
母は注文を取りながら世間話をし、
祖父母は客の人生相談を受けながら笑っている。
店全体が、会話で焼けている。
その中心にいるのが、坂井まどかだった。
大阪市内、下町情緒が色濃く残る私鉄沿線。
高架の音が一定のリズムで響く商店街の一角に、暖簾を掲げる小さな店がある。
お好み焼き屋「てっぱん坂井」。
派手さはない。
だが、いつ来ても満席だ。
理由は明確だった。
ネギ焼きがうまい。
そして――全員しゃべりすぎ。
父は鉄板を返しながら客と雑談し、
母は注文を取りながら世間話をし、
祖父母は客の人生相談を受けながら笑っている。
店全体が、会話で焼けている。
その中心にいるのが、坂井まどかだった。
美月の大学の友人。
エプロン姿で、コテを操りながら客と目を合わせ、自然に会話を回す。
「はい、ネギ多めですね〜」
「今日はえらい人多いですねぇ」
常連も観光客も区別しない。
近くの大型テーマパーク帰りの家族連れも、
気づけば常連みたいな顔で笑っている。
その夜、まどかは気配の違いに気づいた。
カウンターの一番奥。
帽子を目深にかぶり、
静かに水を飲んでいる女性。
空気が、違う。
「……いらっしゃいませ」
その人が顔を上げた瞬間、
まどかの手が一瞬止まった。
整った顔立ち。
目線の置き方。
座り方。
――高田美雪。
世界公演を飛び回るイリュージョニスト。
戦隊ヒロインの大先輩。
「こんばんは。ネギ焼き、お願い」
声は驚くほど柔らかい。
まどかは半信半疑のまま、焼き始めた。
すると、美雪が興味深そうに言う。
「そのコテの返し、いいわね」
「力が入ってない。手首がきれい」
「え、そうですか?」
「戦闘任務で使えるわよ」
その一言が、店の空気を変えた。
ちょうどその時、
美月、彩香、綾乃、琴葉、紀伊ハンターの三人が店に入ってくる。
「まどかー! 腹減ったー!」
「ネギ焼き! 特盛り!」
美雪を見た瞬間、全員が固まる。
「……え?」
「……美雪さん!?」
美月と彩香が同時に叫ぶ。
「フライ返しが戦力!?」
「それ武器ちゃうやろ!」
美雪は、妖艶に微笑んだ。
「“返す”って、戦いの基本よ」
その瞬間、
話を盗み聞きしていた常連の酔客が、
勢いよく立ち上がった。
「まどかちゃん!
戦隊ヒロインなるんか!?」
店内、視線集中。
「ええやんええやん!
白ブーツ履いて、ショートパンツで、
コテ持って敵バッタンバッタンや!」
「応援するでぇ!」
「サイン今のうちもろとこ!」
大爆笑。
美雪は静かに、後輩たちにも声をかける。
「あかり、麻衣。前よりずっと良くなったわ」
「美咲は初めましてね。上品でいい。綾乃路線、合うわよ」
まどかは赤くなりながらも、
胸の奥がじんわり熱くなるのを感じていた。
美雪は静かに続ける。
「人を惹きつける力がある」
「それは、才能よ」
父が言う。
「まあ、やってみたらええがな」
祖母が笑う。
「鉄板の前で育った子やしな」
まどかは、コテを置いて少し考えた。
そして、ゆっくり言った。
「……やってみようかな」
美月が即座に言う。
「それ正解や!」
彩香も頷く。
「ウチら、絶対おもろなるで!」
鉄板の上で、ネギ焼きがふっくら仕上がる。
ソースの匂いと、笑い声と、
人生がひっくり返る音がした。
その夜、
坂井まどかはただの店番から、
物語の中の人になった。




