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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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183/694

海と古道と三人の矜持――和歌山発・紀伊ハンター、円満解決任務

ほんのり潮の匂いする街・和歌山市。

青空の下、イベント広場の特設ステージは、どこかのんびりしているようで、実は地元愛がぎゅっと詰まった空気に満ちていた。


派生ユニット《紀伊ハンター》、本日の任務地。

主役は――紀州の舞姫、白浜麻衣。


最初にマイクを取ったのは奈良の凡庸ヒロイン、春日美咲だった。

声は落ち着き、テンポは正確。観客の年齢層を一瞬で見極めると、余計な煽りは入れない。


「こんにちは。今日は和歌山で、紀伊ハンターのイベントです」


それだけで、拍手が起きる。

美咲の仕事は派手じゃない。だが、場を“安定”させる力は確かだ。

MCという名の交通整理。誰も渋滞しない。


音楽が切り替わる。

麻衣が前に出た瞬間、空気が変わった。


動きは流れるようで、静かなのに目を奪う。

海風を含んだようなダンス。

和歌山の空気そのものが、彼女の身体を通して表現されている。


踊り終えた麻衣は、少し照れたように笑い、マイクを取る。


「私……地元和歌山が、本当に大好きです」


それだけでいい。

大仰な言葉はいらない。

地元の拍手は、短くて力強かった。


「そらそうやろ! 和歌山ええとこやもん!」

山本あかりが、勢いだけで相槌を入れる。


「海もあるし! 山もあるし! なんか全部あるし!」

具体性は皆無だが、勢いは百点。

客席から笑いが起きる。


ここで、問題が投げ込まれた。

観客の一人が叫ぶ。


「熊野古道は和歌山やろ!」

すぐ別の声が返る。

「三重やって!」


空気が一瞬、ざわついた。

紀伊半島名物、帰属問題。

不用意に踏み込めば、拍手は止まり、空気は割れる。


その時だった。


「ええと……」

美咲が、少しだけ間を置く。


「熊野古道は、和歌山にも三重にも、奈良にもあります」


正論だ。

だが正論だけでは終わらせない。


「だから今日は、“全部紀伊半島”ということで、どうでしょう」


一拍。

次の瞬間、どっと笑いが起きた。


「まあ、そうやな!」

「それでええわ!」


円満解決。

奈良の凡庸ヒロイン、ここに真価を発揮。

派手な答えは出さないが、誰も損をしない。


あかりがすかさず畳みかける。

「ほら見て! こういうとき奈良は強いんやって!」

なぜか自分の手柄のように胸を張る。


麻衣は一歩引いて、にこやかに頷く。

三人三様。

だが噛み合っている。


後半はトーク。

美咲が進行し、麻衣が丁寧に答え、あかりが勢いで補足する。


「和歌山のおすすめは?」

「海です」

「山もあるで!」

「温泉もありますよ」

「ほら全部ある!」


雑だが、伝わる。

それが《紀伊ハンター》の強みだった。


イベント終了後、控室。

紙コップの水を手に、三人は一息つく。


「帰属問題、うまくいきましたね」

麻衣が静かに言う。


「争点を作らなかっただけです」

美咲は淡々と返す。


「ウチ、なんも考えとらんかったわ」

あかりは笑う。


それでいい。

このユニットは、誰かが考え、誰かが感じ、誰かが走る。


ハードボイルトに言えば、

任務は成功。

被害なし。

拍手多め。


帰り際、スタッフがぽつりと呟いた。

「なんか……キイハンターっぽいですね」


三人は顔を見合わせる。

誰も元ネタをよく知らない。

だが、それでいい。


《紀伊ハンター》は今日も、

地元を巻き込み、揉め事をほどき、

静かに街を後にした。


次の任務地は、まだ未定。

だが確かなことが一つある。


――紀伊半島は広い。

そして、この三人は、意外と相性がいい。


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