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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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182/695

拍手は三発、任務は一件――四日市発・紀伊ハンター、昼の街を制圧せよ

工場の配管が縦横に走り、潮の匂いと鉄の気配が混じる街。

三重県・四日市。

昼下がりの商業施設前、簡素な特設ステージに、派生ユニット《紀伊ハンター》の三人は立っていた。


派手な爆音も、無駄に凝った演出もない。

あるのはマイク三本と、必要最小限の音響。

だが、妙に空気が張りつめている。


最初にマイクを握ったのは春日美咲だった。

奈良の凡庸ヒロイン。

そう呼ばれてきた彼女は、今日も落ち着き払っている。


「こんにちは。私たちは三重、和歌山、奈良から来ました、紀伊ハンターです」


声は柔らかく、語尾も丸い。

しかし一言一言が正確で、噛まず、詰まらず、余計なことも言わない。

人混みが、じわりと前に寄る。

煽らず、盛らず、ただ状況を整える。

美咲のMCは、舞台を“平地”にする能力だった。


続いて音楽が変わる。

白浜麻衣が、静かに一歩前へ出る。


紀州の舞姫。

彼女の動きは派手ではない。

だが一挙手一投足が、空気を撫でるように滑らかだった。

四日市の無骨な背景が、彼女の動きによって“演出”に変わる。


観客の視線が揃う。

ざわつきが消え、子どもが黙る。

誰かがスマホを下ろし、ただ見入る。

舞とは、言葉を使わない説得だ。

麻衣はそれを、自然にやってのける。


そして――

「ほな次、四日市の番やでーっ!」


山本あかりが飛び出した。

四日市の突貫娘。

地元の空気を吸って育った身体は、ステージを狭く感じさせる。


「工場夜景!」「とんてき!」「港の風!」

叫びながら走る。

走りながら喋る。

喋りながら手を振る。

最後はそのままステージを一周し、客席最前列に向かって深く頭を下げた。


拍手が爆発する。

理由は単純だ。

“自分たちの街を好きだと言われた”からだ。


三人は似ていない。

性格も、話し方も、立ち位置も、すべて違う。

だが不思議なことに、誰も邪魔をしない。


美咲は流れを整え、

麻衣は空気を温め、

あかりは火を点ける。


ハードボイルトに言えば、役割分担が完璧だった。


イベント後半、トークコーナー。

美咲が穏やかに話を振る。

麻衣が一言で締め、

あかりが勢いでまとめる。

笑いが起き、拍手が起き、子どもが前に出てくる。


麻衣は小さく笑い、

あかりは親指を立てる。

「名前覚えてもらえりゃ勝ちやろ」


それでいい。

このユニットに、ヒーロー然とした決めポーズはない。

だが仕事は残る。


イベント終了後、控室。

ペットボトルの水を回し飲みしながら、三人は今日の出来を振り返る。


「進行、ちょっと詰めすぎましたかね」

美咲が反省する。


「でも、あれくらいがちょうど良かったですよ」

麻衣が即座にフォローする。


「せやせや! 四日市は走らな伝わらんで!」

あかりが胸を張る。


噛み合っている。

主張は違うが、方向は同じだ。


派手なランキングも、SNSの瞬間的なバズもない。

だが確かに、この街で彼女たちは“役に立った”。


夕方、撤収作業の中。

三人の背中は、地味で、静かで、やけに頼もしい。


今日もまた、

陰謀も、暴動も、世界規模の危機もない。

あるのは、地域と、人と、拍手三発。


――紀伊ハンター。

彼女たちは今日も、静かに任務を完遂した。

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