非情の掟は鹿の道――紀伊半島に現れた三人のヒロイン・紀伊ハンター
それは「戦隊ヒロインプロジェクト最高戦略会議」と銘打たれた、だいたい毎回どうかしている集まりの夜だった。
場所はいつもの温泉旅館。議題は山ほどあるはずなのに、卓の中央にあるのは資料ではなく、麻雀牌である。
参加者は、隼人補佐官、上州の鬼教官すみれ、波田顧問、そして存在感が牌より薄いまさにゃん。
なお遥室長は不参加だ。理由は単純で、「徹マンは教育上よくないです」と言った直後に全員から無視されたからである。
翌日、隼人補佐官が三十分にわたって小言を聞かされるのは、もはや様式美だった。
「……でよ」
波田顧問が東を切りながら言った。
「最近、奈良の春日美咲が地味すぎるって話、上がっとるやろ」
「はい」
隼人補佐官は真面目に頷く。
「いい子なんですが、特徴が……」
「鹿ですよね」
すみれが即答した。
「奈良公園に溶け込むタイプ。存在が自然」
「悪くはねぇ」
波田顧問は笑う。
「だが人気商売としては、ちと厳しい。そこでだ」
波田顧問は牌を混ぜながら、思いついたように言った。
「奈良の美咲、四日市のあかり、紀州の麻衣。この紀伊半島トリオで、地域振興ユニット組ませたらどうだ?」
一瞬の沈黙。
そして、
「……それ、かなり良いですね」
隼人補佐官が真顔で言った。
「はい」
すみれも頷く。
「地味でも“線”がある。観光、食、文化。全部拾える」
その瞬間だった。
まさにゃんが、訳の分からない牌を振り込み、すみれが大三元でも和了ったかのような勢いで卓を叩いた。
「決まりだな」
こうして、最高戦略会議(ただの徹マン)で、春日美咲の運命は軽率に、しかし前向きに決まった。
――後日。
ヒロ室の会議スペースに、春日美咲、四日市のあかり、紀州の麻衣が並んで座っていた。
三人とも真面目で、素直で、どちらかと言えば前に出るタイプではない。
「派生ユニットを結成してもらいます」
隼人補佐官が説明する。
「役目は、紀伊半島全体の地域振興」
波田顧問が続ける。
「観光、文化、地元イベント。地味でもええ。地に足つけてやれ」
「ユニット名は――」
波田顧問が一拍置く。
「紀伊ハンターだ!」
三人の表情が一斉に止まった。
「……ハンター、ですか?」
美咲が恐る恐る聞く。
「紀伊半島と、昔の超有名アクションドラマをかけてな!」
波田顧問は得意満面だ。
「……そのドラマ、見たことある?」
あかりが小声で麻衣に聞く。
「いえ……」
麻衣も首を振る。
三人とも知らなかった。
誰一人として「キイハンター」を知らなかった。
「今どきの子はなぁ!」
波田顧問は笑う。
「ま、ええ。大事なのは名前より中身だ!」
そう言われて、三人は顔を見合わせた。
奈良、三重、和歌山。
派手さはないが、それぞれが愛する故郷がある。
「……頑張ります」
美咲が静かに言った。
「地元のためなら」
あかりが頷く。
「やらせてください」
麻衣も微笑んだ。
その瞬間、三人の中に、小さな火が灯った。
爆発的ではないが、確実に燃え続ける火だ。
――数日後。
三人はさっそく、奈良市での小規模イベントに投入された。
鹿と一緒に歩く美咲。
地元グルメを丁寧に紹介するあかり。
紀州の歴史と海の話を静かに語る麻衣。
派手な歓声はない。
だが、足を止める人は確実に増えていった。
「……なんか、いいね」
隼人補佐官が遠くから見て呟く。
「だな」
波田顧問も頷く。
「地味だけど、効く」
その夜。
三人は控室で並んで座り、少し疲れた顔でお茶を飲んでいた。
「私たち、目立ってますかね……?」
美咲が不安そうに言う。
「目立たなくても、覚えてもらえれば勝ちです」
麻衣が穏やかに答える。
「それに……」
あかりが笑う。
「楽しかったし」
美咲も、少しだけ笑った。
――今日もまた、地球のあらゆる場所で、派手な陰謀や暴動が渦巻く。
だが紀伊半島では、鹿が歩き、港が揺れ、山が笑う。
恋も、夢も、望みも捨てないまま、
非情ではない掟で、地元に命を賭ける三人。
彼女たちの求めるものは、誇り。
願うものは、日常の平和。
人は彼女たちをこう呼ぶ。
紀伊ハンター。
――元ネタは誰も知らないが、
この三人が守るものだけは、確かにここにあった。




