あの日、白と黒に心を撃ち抜かれて
※この物語に登場する試合(2012年8月5日 ロッテ対オリックス戦)は、作者が実際に現地で観戦した試合です。
40年来のマリーンズファンとしての実体験を、少しだけ美月の目線に重ねて綴りました。
2012年8月5日、日曜日。
夏休み真っ只中の美月――当時はまだ小学校低学年だった――は、新しいワンピースを着て、いつもより少しだけ早起きしていた。
「今日はおでかけやで、美月。パパがもろてきた“野球の券”でな」
父の赤嶺真人が笑顔でそう言った。
「やきゅう?……どこでやんの?」
「京セラドームや。ええトコらしいで、冷房も効いとるらしいし」
「へぇ〜、ジャニーズとか来るとこちゃうの?」
「今日はジャニーズやのうて、ロッテ対オリックスや」
そんな具合で、美月は野球観戦がどんなものかも分からず、ただ「ドームに行く」「冷房が効いてる」「ポップコーンが食べられるかもしれん」とだけ期待していた。
母の春菜も、化粧を軽めに整えてついてきたが、完全にピクニック感覚だった。
京セラドーム大阪 三塁側スタンド席
座席は三塁側の中段。ほとんどがオリックスファンの中、ひときわ異彩を放つ“白と黒の軍団”がレフトスタンドに広がっていた。
「……なんか、あのへんだけ雰囲気ちがうなぁ……」
美月がポップコーンを抱えたまま指をさしたのは、千葉ロッテマリーンズの応援団だった。
太鼓、トランペット、怒涛のチャント、そして一糸乱れぬ跳ねる動き――
「うっわ……なにあれ、かっこええやん……」
試合前のシートノックの時点で、もう彼女の視線は“あちら側”に釘付けだった。
試合展開(2012年8月5日 実データ)
試合はシーソーゲーム。
2点を追うマリーンズは4番ホワイトセルの本塁打とこの日捕手でスタメンの田中雅彦の適時打で逆転に成功。
再度逆転されるも7回に6番サブローの適時打で逆転しレフトスタンドが大盛り上がり。
そのころには――
「駆け抜けろホームまで~ おぎの!たかし〜!♪(ドンドンドンッ)」
「頂点狙え~ いまえ~ としあき~」
「井口打て~ 井口打て~ ラララ・・・」
美月がこっそり声に出して応援歌を口ずさんでいた。
「おぉ……覚えたんか?」
父の真人が驚いた顔で娘を見る。
「……なんか、乗るやん?これ。カッコええし」
実は美月、音楽やリズムに敏感な子だったのだ。
終盤はオリックスファンが静まり返る中、マリーンズの応援だけが力強く響いていた。
試合終了後:
「結局、ロッテが勝ったなぁ……すごかったな」
「ウチ……ロッテ好きかも」
「え?なんで?」
「だって……あの応援、めっちゃかっこええもん。ウチも、なんか応援したなるやん」
「そうか、美月は“応援”が好きなんやな」
母の春菜が笑った。
この日以来、美月はマリーンズのファンとなった。
縁もゆかりもない“千葉のチーム”を、東大阪の小さな女の子が、心から応援するようになったのだった。
後に国家プロジェクトに選ばれ、「戦隊ヒロイン」として敵を相手に立ち向かう美月の原点――
それはこの日、京セラドームで白黒の軍団が歌い、跳ね、戦った姿にあったのかもしれない。




