奈良の凡庸ヒロイン、騒音地帯に降臨 ――鹿のように静かで、なぜか扱いづらい
大阪府内・戦隊ヒロインプロジェクト西日本分室。
ここは今日も、知性と品格と騒音が同居する魔境である。
「551以外はなぁ! 豚まん名乗ったらあかん言うとるやろ!」
美月が机を叩いた瞬間、
「はぁ? 何寝ぼけたこと言うとんねん」
彩香が播州弁全開で噛みついた。
「コンビニの豚まん、今どき下手な専門店より旨いん知らんのかい。昭和で脳止まっとんちゃうん?」
「誰が昭和やねん!」
「あんたの価値観がや!」
火花が散る。完全に子供の喧嘩だ。
そこへ隼人補佐官が咳払い。
「ええと……551も美味しいですし、最近のコンビニもレベル高いですよね」
その瞬間、
「中途半端なこと言うなや!」
「どっちの味方やねん!」
二人同時に詰め寄る。
地獄である。
そのとき、控えめなノック音が空気を切った。
「……失礼します」
入ってきたのは、静かな奈良の風そのものみたいな少女だった。
「新しい仲間を紹介します」
隼人補佐官が救命ボートのような笑顔で言う。
「奈良県出身、春日美咲さん。十九歳です」
「春日美咲です。よろしくお願いいたします」
背筋が伸び、声は柔らかく、動きに無駄がない。
綾乃が一瞬で理解した顔になる。
「……奈良どすな。はんなりの完成形どす」
「なぁ、あの子めっちゃ落ち着いとらん?」
美月が小声で言う。
すると彩香が鼻で笑った。
「落ち着いとるんやない。面白みが一切ないだけや」
「ちょ、言い方!」
「事実言うただけや。戦隊ヒロインやで? 鹿みたいに大人しゅうしてどないすんねん」
美咲は動じない。
「いえ……特別なことは何も……」
「ほら見ぃ」
彩香が腕を組む。
「“特別なことは何も”言うたで今。怖いわこの子」
あかりと麻衣がひそひそ話す。
「なんか先生みたい……」
「怒られたら泣きそう……」
綾乃が柔らかくフォローに入った。
「まあまあ。凡庸いうのも、時には武器どす」
「武器にならんもんは、ただの無味無臭や!」
彩香、容赦なし。
しかしその時、美咲が小さく微笑んだ。
「……でも、頑張ります」
その一言に、なぜか一瞬だけ部屋が静まる。
美月が首をかしげる。
「……なんやろ。腹立たん」
彩香も舌打ちしつつ視線を逸らした。
「……まあ、嫌いやないけどな」
奈良の凡庸ヒロイン・春日美咲。
播州の毒舌も、河内の勢いも受け止めて、今日も静かにそこに立っている。
何もしない。
何も壊さない。
だがこの“普通さ”が、のちに西日本チームをじわじわかき乱す――
そんな予感だけが、なぜか全員の胸に残っていた。




