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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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177/715

歌は天使、生活は迷子――国立の歌姫・藤原詩織の取扱説明書(未完成)

世間は彼女をこう呼ぶ。

国立の歌姫・藤原詩織。


北欧系クォーターの端正な顔立ちに、澄み切った天使の歌声。

ステージに立てば、会場は一瞬で静まり、次の瞬間には拍手の嵐。

──なのに、舞台袖に下がると、コードに足を引っかけ、マイクを逆さに持ち、椅子に座ろうとして空振りする。


この落差が、致命的にウケた。


「かわいい……」「放っておけない……」

そんな声が、未就学児から保護者層まで一斉に湧き上がり、

詩織は気づけば人気戦隊ヒロインの仲間入りを果たしていた。


グッズ売り場では、

「しおりんの歌、また聴きたい!」

「この子、品があって安心よね」

と、親子連れが列をなす。

子どもが好きで、幼い一面もある彼女は、自然と子どもの目線にしゃがみ込み、

「いっしょに歌おっか?」

と屈託なく笑う。


その姿を見た保護者の心は、だいたい三秒で落ちる。


ヒロ室フロントでも評判は上々だ。

遥室長は穏やかに頷き、

「詩織ちゃんはね、家柄も良くて、品行方正で……安心感が段違いなの」

隼人補佐官も真顔で、

「イベントに送り出しても、主催者側から一切クレームが来ない。これは重要です」

と太鼓判。

すみれコーチに至っては、

「……歌わせときゃ問題起きねぇタイプだ」

と、最大級の評価を与えている。


チーム内での評判も、概ね良好だ。


同い年の美月・彩香・綾乃とは特に仲が良い。

もっとも、精神年齢が一番下なのは詩織で、

彼女は三人を「お姉ちゃん」扱いする。


「美月お姉ちゃん、それ危ないよ……」

「彩香お姉ちゃん、怒らないで……」

「綾乃お姉ちゃん、これどうするの……?」


結果、

「なんでウチらが世話焼いとんねん」

「この子、放っといたらあかん」

と、自然に面倒を見る流れが出来上がった。


さらに特筆すべきは、

千葉の叡智・館山みのりと駿河の良心・杉山ひかりの存在だ。


年下にもかかわらず理知的でしっかり者の二人は、

詩織の一般常識の欠落を瞬時に察知し、

「伝票は私が書きますね」

「機材は触らなくて大丈夫です」

と、さりげなくフォローに回る。


詩織はというと、

「みのりお姉ちゃん……ひかりお姉ちゃん……」

と、完全に年下に姉を見出す逆転現象を起こしていた。


この三人が揃うと、現場はなぜか平和だ。

詩織が歌い、

みのりが段取りを整え、

ひかりが全体を柔らかく包む。


──完璧である。

歌わせておけば。


だが、すべてが順風満帆というわけではない。


ヒロ室の隅で、静かに、しかし確実に視線を送る三人組がいる。

澪、沙羅、理世──ベイサイドトリニティである。


「……また詩織?」

「正直、そこまでかしら」

「……納得いきません」


彼女たちは知っている。

自分たちが伸び悩む一方で、

詩織が何もしていないように見えて、全部持っていく存在であることを。


だが当の本人は、

「え……私、何かしました?」

と、心の底から不思議そうだ。


歌っているだけで、

笑っているだけで、

何かを壊しても、誰かが直してくれる。


そう、藤原詩織は──


世間知らずで、頓珍漢で、

でも誰よりも愛される、

歌うだけで場の空気を変える天災型ヒロインなのだった。


今日も彼女は、

「次は何を歌えばいいですか?」

と無垢に尋ね、

周囲が慌てて環境を整える。


世界はまだ、

この歌姫を完全には扱いきれていない。

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