推し活か、任務か、それが問題や
場所は大阪・中之島のオシャレなカフェ。
窓際の席に、ミルクティーを挟んで座る二人の女子――見た目はただの大学生だが、その正体は誰もが知る戦隊ヒロイン。
「やぁ〜、ウチらの作戦、バッチリ成功やったなぁ!」
ふわっとカプチーノの泡に笑顔を浮かべながら、美月は上機嫌。周囲の視線がチラチラ集まるのも当然。何せ、前日のニュースで取り上げられたのだ。
“正義の戦隊ヒロイン、美月と綾乃が違法医療施設摘発に成功!”と。
「ウチのSNS、通知鳴り止まへんねん。“惚れました”とか“尊敬してます”とか、“付き合ってください”ってのも3件あったわ。全部女子やけど」
「それは美月さんの“あの口調”に惚れたんでしょうね」と綾乃が紅茶を口に運びながら涼しい笑顔。
「せやけどな、綾乃……」
美月はふいに真顔になって、小さく溜息をついた。
「なんでよりによって、作戦の日がマリーンズの神戸試合の日なんよ〜っ!」
「またそれですか……」
「年に1回あるかないかの!あの神戸の!ほっともっとフィールドやで!? 天然芝がキラッキラで、あの開放感! 5回終わったらドーンて花火上がるんよ!? あの演出、正義やで!? あれ観に行く予定やってんウチ……!」
綾乃は苦笑しつつ、メモ帳に小さく「正義:花火」と書き足した。
「しかもや、最近マリーンズ調子悪いのに、推しの藤原恭大くんが頑張っとるねん。1軍復帰してヒット打って、守備もバチバチ決めてて……もう“いま応援せんでいつ応援するねん”ってタイミングやってん!」
「それで任務放棄しようとしましたよね、一瞬」
「ちょっとグラっとしただけやん!」
「“任務、月曜にずらされへん?”って政府高官に直談判しようとしてましたよね?」
「だって、来年また神戸で試合あるかどうか分からへんやん!?」
「それ、ほぼ毎年言ってますよ」
美月はふてくされたようにスプーンでカプチーノの泡をぐるぐるかき混ぜる。
一方、綾乃は笑みを崩さず、しかしやや呆れたような目線で美月を見守る。
「でも、仕方ないです。正義の味方は、いつもスケジュールに自由がありませんから」
「それがツラいとこなんやぁ〜。チケットとって、ユニも洗ってたのにぃぃ!」
「……本当にヒーローなんですか? ただの熱狂的ファンにしか見えませんが……」
そう言いながらも、綾乃はそっとスマホを取り出し、美月のために当日の神戸の試合写真を表示する。
「これ、現地に行ってた人がSNSに上げてた写真です。天然芝、確かに綺麗ですね」
「……うわ、なにそれ、泣ける……」
「ほら、次は現地で観られるよう、次回任務を早めに片づけましょう」
「うぅ……綾乃、ホンマええやつやな……来世はマリーンズの応援団長になってや……」
「……それは遠慮します」
カフェの中で、小さく笑い声がこだまする。
戦うヒロインも、球場の歓声も、どちらも彼女にとって等しく“推し活”なのだった。




