父、会社で娘を褒められる(ただし“あの口調”を除けば)
「赤嶺さん、赤嶺さん、昨日テレビ観たで~! あれ、娘さんやろ?」
朝の会議室。大手企業のミーティングルームに入るなり、父・赤嶺真人(48歳・真面目な中間管理職)は、部下や同僚たちからの祝福のシャワーを浴びていた。誰も資料の準備などしていない。全員、口にしているのは昨日のニュース番組である。
「え、いや……まあ、はい。うちの娘でして……」
真人は戸惑いながらも、どこか誇らしげに鼻の下が伸びている。
「うっわー、すごいな~!なんやっけ、違法病院ぶっ潰したやつやろ?」
「うちの嫁、録画して何回も観てたで。“あの子、清純顔で河内弁ってギャップがええわ~”て」
「最後のセリフ、あれ最高やったな。“闇医者は、地獄でカルテでも書いとき”ってやつ!」
同僚たちは、スマホで録画した映像を見せ合いながら大盛り上がりだ。
しかし、その空気に唯一、水を差したのは、隣席の新卒社員・田村くん(22歳・真面目系メガネ男子)だった。
「でも部長……ちょっと言葉遣いが荒かったですよね。“おどれらみたいなクズに診察されるくらいやったら、草でも食うて寝とった方がマシや!”って……」
「……」
赤嶺真人、反応に困る。
「そこがええんや!」
「そうそう、あれぞ河内魂や!」
「てか娘さん、あの口調どこで覚えたんですか? まさか部長が家庭で……」
「ちがぁうっ!!!」
真人は勢いよく立ち上がり、会議室に響くほどの声で否定した。
「うちは……ちゃう! 家ではもっと、こう……おしとやかで……えーと、まあ……たぶん……」
――遠い目をする真人。
その後、会議は“赤嶺部長の娘が凄すぎる件”を中心に進み、議題の「来期営業目標」は誰も口にしなかった。
そして最後、課長の井口がこうまとめた。
「よし、じゃあ次回の懇親会は“ヒロイン赤嶺美月を囲む会”ってことで、奥さんも呼んで、家庭での教育方針について聞こうや!」
「いや、絶対やめといた方がええと思います……」
真人のか細い抵抗は、全員の笑い声にかき消されたのだった――。




