プロローグ:「赤の魂、河内に轟く」
春風のそよぐ午後。
東大阪のごく普通の街角を、ひとりの少女が駆け抜けていく。
「ちょ、ちょっと待ってぇや!ギリ遅刻やて、ホンマ!」
誰がどう見てもただの童顔美少女。
低めのツインテールに琥珀色の瞳、どこか小動物めいた愛嬌があるその子の名前は――赤嶺美月。
地元の有名私大・経済学部に通う、ごくごく“普通”の女子大生……に、見える。
しかし、彼女の正体は――
国家機密にも匹敵する極秘プロジェクト「ライトウィンドレンジャー」の一員、通称《真紅の戦隊ヒロイン》。
普段は交通安全のポスターに映る笑顔の広告塔。
防犯キャンペーンで子どもたちに反射材の大切さを説く啓発のお姉さん。
けれどひとたび指令が下れば、警察や特殊部隊と連携し、裏社会に巣食う敵をバッサバッサとなぎ倒す、まさに“国家公認の女侠客”。
その戦いぶりは、凛として華麗。
しかし口を開けば――
「どついたろかワレェェェッ!! 東大阪なめたら血ィ見るでコラァァァ!!」
……華麗さなどどこへやら、
河内弁全開の恐ろしい啖呵が空を裂き、敵の心を叩き潰す。
だが彼女は戦うヒロインである以前に、ちょっとそそっかしい普通の女の子。
チアサークルでは汗を流し、
夜な夜な唐揚げを頬張りながら戦隊モノの録画を見てニヤける日常。
「普通であること」と「特別な使命」のあいだで揺れながら、
今日も美月は――戦う。
真紅の魂と、河内の誇りを胸に。
小柄なその背中に、日本の平和(と笑い)がかかっている。