一役を買う
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
お金の役割、と聞いたときにみんなが思い浮かべるものには、どのようなものがあるかな? おそらく、ぱっと浮かぶのは3つ、ないしは4つだと思う。
ひとつめは価値の尺度。
お菓子でプリンにクッキーにチョコレートに……と並んだとき、それだけだとどれがどれほどの価値があるかわかりづらい。
そこにプリン100円、クッキー50円、チョコレート80円……と添えてもらえれば、おおよそは見当がつく。
ふたつ目は交換の手段。
先の例でプリンひとつがクッキー2枚分の価値があると分かる我々だが、もしお金が存在せず物々交換しかできない場合どうなるか。
たとえば自分はプリンを用意し、クッキーと交換したいが1枚だけでいい……といったとき融通がきかない。代わりにお金があれば、クッキー1枚分のコストを払って、手に入れることが可能だ。
みっつ目は価値の保存。
先のお菓子たちの鮮度は短く、ほうっておけばたちまち傷み、価値を失ってしまうだろう。
その点、お金は彼らよりもずっと長く同じ形で保たれ、価値を損なうことはないのだ。
じゃあ、よっつ目の役割はなにか? これは「支払い」とみなされることがある。
交換の手段とほぼ同一だが、いわば気持ちのあらわれといおうか。
お礼として金一封を差し上げる、とはたびたび目にするフレーズかと思う。具体的な額を示さずともそこには気持ちの表れがある。たとえ心の中では、あっかんべえをしていたとしても、お金を出したという事実が刻まれるんだ。
お金はその価値が双方に保障されてはじめて意味を持つのだが、文化の異なりなどで把握されていないときなどやっかいだ。
勝手に支払われて、勝手に持っていかれて……はた目には窃盗サインを残していく怪盗であるかのごとく。ロマンとは程遠いがね。
この支払いが、いつどのようにされているか。私たちもちょい気を付けたほうがいいパターンもあるかもしれない。
私の以前の話なのだが、聞いてみないか?
あれは私が11歳のころ。
自分の部屋の掃除が苦手な私は、もっぱら母親頼みだった。
掃除したあとで、大事なものが行方不明になる事態は避けたいので、部屋を出るときには、あらかじめ用意した貴重品スペースにブツを退避させることは徹底していた。そこより外はどのように扱ってくれてもいいし、判断に困るものは勉強机の上へ転がしてもらうようにも依頼している。
私の勉強机はというと、参考書や辞書類のほか、最近買ってもらったデスクトップパソコンもある、子供にとっては豪勢なものだった。
誘惑が多いととられるかもしれないが、私はさいわいこのあたりをきっちり分けられるタイプだったから、勉強に支障が出ることはなかった。
そのデスクの真ん中に、なにやら見慣れぬものが置かれている。このポジションに置かれるのは、掃除した親にも意味不明で、私の判断に任せるとされたものだ。
どのようなものか……といわれると、ぱっと見ではよく分からなかった。カーブを描いた曲線で白みを帯びている……といったくらいしか。
勉強机の参考書などをひっくり返して探し回り、それが坐骨らしいことを突き止める。
坐骨! さすがの私もびびったよ。
なぜ、このようなものが部屋にあったのかってね。模型といっても、私が持っているのは本の中だけでの話。実物はこの部屋のどこにも用意してはいない。
かといって、このようなパーツを持つ物品もちょっと思いつかなかった。このときは、ゴミだろうと思い、ゴミ箱へシュートしてしまったわけだが。
親に掃除されるまでもなく、それらはたびたび私の部屋の中から見つかったんだよ。
坐骨のように湾曲したものは、他に3つ。日を置いて見つかるも、それだけじゃない。細々とした破片のようなものも姿を見せた。
それらは親指の先っちょから第一関節に至る前後あたりといった細さ、大きさでもって、これは数十個は見つかったな。多少のサイズ差はあったけれどね。
さすがにおぞましさを覚えて、自ら部屋中を漁ることもした。自分での掃除に縁がなかった私には大変めずらしいことで、一時期は親の仕込みすら疑ったりもしたね。
やがて、その数も落ち着いたかと思うと、やがて幅広な骨らしきものが見つかる。
いや、本当に骨だったのかは分からない。これまで見つかった破片たちと同じような色合い、固さを持っていたからそう思っただけで。
縦にも横にも三十センチほど、それでいて四隅が削り取られたようにかけた骨の破片を、私は同じように処分したんだ。
ややあって。私の部屋に異状があらわれる。
パソコンのキーボードだ。文書を打っていた私は、突然、文字が打てなくなったのに気付いたんだ。
キーが反応しなくなっている。どれを押しても同じだ。カーソルが点滅を続けているから、フリーズしたわけでもないらしい。
めちゃ打ちしても状況は変わらず、いったん電源を切ろうかと思ったとき。
ほんの数秒ほどだったが、私のタイピングよりもずっと早く、新たな文字列が並んでいく。
読めるどころか、私にとっての知らない文字ばかり。アルファベッドはおろか、地球にあるもろもろの字で当てはまる形などあるのだろうか?
まるまる一枚の文書が埋め尽くされるより先に、私はパソコンの電源を落としたよ。そして、もう二度とつけることなく処分してしまったんだ。
あの骨らしきものたちは、私のキーボードを模していたように思える……と振り返って考えたよ。
どうやらあの文字の使い手は、私からキーボードを買い取り、ディスプレイを通してなにがしかのメッセージを伝えたかったのかもしれない。
あそこで切って正解だったのかどうかは……いまだ分からない。