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スイートバカンス  作者: 遠藤 敦子
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 勤務開始して1週間ほど経った頃、東京から来たという50代くらいの夫婦が来店する。レンタルするのは奥さんのみだけれど、夫の方もなかなか癖のあるタイプだ。奥さんに

「アンティークの着物に名古屋帯を合わせたいんだけど、どれが合うと思う?」

と訊かれ、私はいくつかおすすめしてみた。しかし奥さんは、どれも好みじゃないとのことだ。どんな雰囲気が良いかと訊いてみると、奥さんは

「私、銀座の料亭で働いてるの。だから私にふさわしい上品な感じにしてちょうだい」

と言ってきた。上品なんて自分で言うか? 私は内心そう思ったけれど、いくつかおすすめしてみて、結局はコーディネートが決まる。

 その後の着付けとヘアセットの際も、事あるごとに奥さんが「私は銀座の料亭で働いてるから、着付けもヘアセットも自分でやってるの」と言っていたそう。着付け師の石澤(いしざわ)さん(40代前半くらいの女性)もヘアセットスタッフの平林(ひらばやし)さん(20代後半くらいの女性)も、

「じゃあレンタルしにくるんじゃなくて、自分でやれよ……」

と呆れ返っていた。



 その後は系列店--半年前にオープンした--にヘルプに行き、オープン当初からいる40代半ばの内村(うちむら)さんという女性スタッフと一緒に仕事する。この内村さんはマイルールの持ち主で、荷物を入れるバッグはカップルなら女性から先に渡せとか、キャリーケース預かり用の札はカップルなら女性に渡せだとか言う人だ。何かにつけて高圧的に命令口調で物を言う人なので、私は内村さんについて「なんだこのひと」という印象を抱いていた。杉浦さんからはそんなこと聞いていないし、他の社員さんからもそんなルールは聞いたことがない。勤務中、内村さんに

「大前さん、いまそれしなくていいからこっち優先して!」

と命令口調で何度も言われたことがあった。しかしそんな彼女も昼休憩中は、若い社員さんと打ち解けている様子だ。内村さんについて嫌な印象を抱いた私がおかしいのかと思ってしまった。


 また別日、40代前半くらいの社員の山脇(やまわき)さん--ブリーチした髪を派手な色に染めており、つけまつ毛もバシバシつけている--と初めて会う。この山脇さんもマイルールの持ち主かつ、お客さんの前でスタッフを強く注意するような人だ。山脇さんに注意されて私は「すみません、以後気をつけます」と謝罪したけれど、心の中ではやはりなんだこのひと偉そうにと思っていた。また山脇さんはお客さんと話し始めると止まらなくなり、周りを見ることもできなくなっていたのだ。

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