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009 一之瀬星華の策

 そんな俺たちを狙ったかのように、目の前の十字路に金髪カールの美少女が吹き飛んできた。


「ぐっ……」


 俺を見上げるその目は、もうさっきまでの優しかった星華さんではない。

 俺たちの命を狙うカルマーのエージェント、一之瀬星華だ。俺を殺しにきた日のエルサの目とよく似ている。


「うおっ!?」


「物思いにふけている場合ですか?」


「エルサ! 今俺のこと狙っただろ!」


 チェーンクナイが俺の鼻先を通ったので異議申し立てだ! ったく。


「ハルト様、お下がりください。死にたいのならそのままでもいいですけど」


「え?」


「彼女、怒っていますよ」


 一之瀬星華は立ち上がり、その手には壊れた拳銃が握られていた。

 あれはヤバいな。俺はともかく、多島さんや周辺住民が危ない。


「もう嫌。あたしを捨てた両親が生まれ育ったこの国に来るのも嫌だったのに。こんな痛い目に遭わされるなんてほんと最低」


「おい晴人、拳銃はヤバいぞ」


「わかっていますよ」


 ここは住宅街の十字路。もし通行人でも来たら人質に取られる可能性もある。その上戦闘になれば流れ弾も危険だ。


「エルサ! 一之瀬星華を拘束しろ!」


「できるのならもうやっていますよ」


 エルサは何度も拘束を試みているらしい。

 人外レベルでチェーン付きクナイの扱いが上手いエルサがまだ拘束できない相手か。カルマーって組織は思っていたより底が見えないな。


「ふー、ふー!」


 一之瀬星華め、かなり興奮してやがる。あれじゃいつトリガーを引くか分からないぞ。


「ハルト様、彼女は6発の内3発を撃っています」


「残り3発か」


 しかもエルサが壊しやがったのか知らないが、先端が壊れているじゃねぇか。

 アレで撃てるんだとしたら、あらぬ方向へ飛ぶ可能性だってあるぞ。


「ふっ!」


「やばい!」


 引き金を引きやがった!

 ……あれ? 銃声は?


「ばーか、引っかかりやがって!」


 一之瀬星華は俺たちを嘲笑うように舌を出した。

 そしてどこに向かうのか、走り出してしまう。


「追うぞエルサ! 人質でも取られたら厄介だ」


「かしこまりました」


 あのタイミングで銃を囮にしたってことはもう撃てないと判断して良さそうだ。

 ならなぜ諦めない? もう反撃の余地はないはずだ。


 考えろ、何かあるはずだ。あいつが逃げる先にどんなメリットがある?

 一之瀬星華の住んでいたアパート、何かが足りなかった気がする。何が……


 答えを推察できた瞬間、血の気が引く思いがした。


「はっ! やばいぞエルサ! 早く追いつかないと」


「無理です。基本的身体能力ではわたくしと五分でございますので」


 くっ……このままじゃ!


「あはははは、ザマァ見ろ!」


 俺の悪い予感は当たったようだ。

 やはりあのアパート、郊外にしては占有面積が狭く、駐車場がなかった。


 都心ならともかく、こんな地方では車がないと生活できない。だから基本、アパートには駐車場が付属してくるものなのだ。

 きっとこういう外に出される事態も想定して、少し離れた位置に駐車場がある物件を選んだのだろう。


 一之瀬星華は赤い車に乗り込み、エンジンを大きくふかして俺たちに向かってきた。


「多島さん掴まれ!」


「お、おう!」


 多島さんの手を取って咄嗟に横跳びした。

 間一髪避けられたが、当たっていたら今日2度目の事故だったぞ。


「ぐっ!」


 多島さんは地面にぶつかって唸り声をあげた。

 俺も悶えたいところだけど、今は一之瀬星華の確保が優先だ。


「エルサ! チェーンは!」


「すでに射程範囲外です。逃げられましたね」


 くそ、なんて馬力ある車だよ。加速力が午前中に跳ねられた軽自動車とは訳が違う。


「やられた……エルサと俺が生きている情報を持って行かれたぞ」


「その点に関してですがご安心を。そんなにすぐにはカルマーは動きません」


「どういうことだ?」


「まぁ、話は後でゆっくりとしましょう。今はただ、ここから逃げた方がよろしいかと」


 近隣住民からの通報があったのか、耳を澄ますと遠くからパトカーが近づいてくる音がした。


「確かに。巻き込まれたら厄介だな。多島さん、今日の夜は俺の家に寄って行きませんか?」


「あん? なんでだよ」


「一之瀬星華からは前金の5万円しか貰えなかったですけど、その分いい置き土産を残してくれましたからね」


 俺は小走りになって、先ほど多島さんと話し合いをしていた場所に戻った。

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