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019 オフ会スタート

 それから3日後、オフ会の開始時刻1時間前に駅にて刹那と合流した。

 今日は白銀の魔女ことエルサがいるからか、はたまた狙われていることへの緊張からかは分からないけど、とにかくおとなしい様子だ。逆に調子が狂う。


 今日の刹那はゴスロリ系の服ではなく、黒のフリルシャツという彼女にしてはこれまた大人しめの服装だった。よく似合っているし、オフ会らしくていいんじゃないかと思う。


「晴人、今日は迷惑をかけるな」


「仕事だ。迷惑も何もない。刹那は何も気にせず楽しめよ」


 オフ会の主催者が申し訳なさそうにしていたらファンがかわいそうだ。

 その中に紛れているかもしれない命を狙ったアンチ以外を楽しませるのが今日の刹那の仕事だからな。まぁ本人はちゃんと分かっているだろうけど。


「さて、さっそく中華料理屋の下見に行くか」


「うむ。あ、エルサさん疲れていませんか?」


「なんの気遣いですか?」


「ひぃ!」


 まだ恐怖心は全然抜けていないみたいだな。はは、こりゃ長引くぞー。

 苦笑いしながら電車に乗り、都心部と郊外の中間地点くらいにある街で降りた。


「ここなら人も集まるでしょうね」


「うむ。ハルトや白銀の魔女を含めた11人全員を狂乱の宴に酔わせてやろうではないか!」


「刹那、ちゃんとお前も楽しめよ。お前が楽しまなきゃ、ファンだって楽しめない。1人の敵のために他の人たちを巻き込むな」


「……うん。晴人は優しいな」


「ハルト様、なんですかその歯の浮くようなセリフは。口説いているのですか?」


「そんなわけあるか」


 エルサめ、やっぱり俺が女の子と絡むと口出ししてきやがる。嫉妬しているのか? お? まぁそんなわけないけど。

 駅から歩いて数分のところに中華料理屋があった。派手すぎず、地味すぎない。男が好きそうなザ・町中華って感じの店だ。


「こっそり中を見てみるよ。通報されたら逃げるからな」


「最狂乱の宴前にあまり下界の者と揉め事は起こすなよ?」


「あぁ、分かってる」


 積まれた酒樽に乗り、換気のためか開いた窓があったのでそこから覗き込んでみた。

 なるほど、『刹那さま予約』と書かれたテーブルがある。あれがオフ会場所か。


 円形に12席、椅子の色が茶色なのに一つだけ黄色。あれがたぶん刹那の席だ。じゃあその隣が俺だな。

 目視で確認するに、隣の席との距離はかなり近い。護りやすいが、その分攻撃されやすいともいえる。


「よっと」


 俺は必要最低限のことを確認し、酒樽から降りた。


「どうだ晴人! 我の最狂乱の宴の席は」


「警護の視点で言わせてもらうと若干厄介だ。隣との席間隔が近い。もし刹那の逆隣のやつが小さなナイフで襲ってきた場合、気がつけない可能性もある」


「ならばハルト様、ここはわたくしが」


「そうだな。エルサに予防線を張ってもらう」


「というと?」


「エルサの得意武器、チェーン付きクナイのチェーンをテーブルの下に潜らせておくんだ。もしナイフを取り出した場合、すぐに弾き飛ばせる」


「おぉ、頼もしいではないか!」


「それで万事解決ではないぞ。オフ会で多くのファンと交流するために、円卓の直径が小さい店を選んだだろ。そうなると小型拳銃で狙われる可能性が高くなる。これはナイフと違って離れた席からも狙える」


「それに関しては大丈夫だろう。我だって注意する」


「注意でどうにかなるものでもありませんよ」


「まぁエルサ、本人がこう言っているんだ。尊重してやろうぜ」


「……かしこまりました」


「この店にしたのは何か理由があるのか?」


「オフ会の場所を探していたらネットのおすすめで出てきたのだ」


「……なるほど、そういうことね」


 そうこう話をしている間にオフ会まであと20分か。せっかちなファンならもう現場に来そうなものだけど。


「あっ! せ、刹那たん!」


「ほ、本物だ!」


 来たか。まずは男性ファン2人。年齢層は大学生くらいか?


「なんだ君たちは? 刹那たんのファンか?」


「当たり前だ。そうでなければここにはいない」


「ず、ずいぶんと美人さんですね……お名前は……」


 オタク第二号はモジモジとしながら、エルサに名前を尋ねた。

 おいおい、推しの前でエルサに浮気するなよ。バカか。


 エルサは完全塩対応で、目を合わせようとすらしない。オフ会、無事に終わるかな。エルサにクラッシャーされるとかかわいそうが極まっているぞ。


「ハルト様、こうして一蹴するのが正解でございます」


「ん? なんで俺に言うの?」


「……もういいです」


「いま不機嫌になったよね!? それはわかるぞおい!」


 エルサは俺に何を伝えたかったのだろう。俺に言い寄る奴なんていないってのに。

 ちょっと考え込んでいる間に、俺たち含む刹那のオフ会参加者11人が集結した。


 この中にボウガン野郎みたいな細身の男はいないか探すが、なんかほとんど細身なんだけど。もやしみたいに細いやつか、極端なおデブさんしかいない。なんだこの界隈は。


「メイドさんも眷属なんですか?」


「よかったらアドレス聞いても?」


「いつからのファンなんですか?」


「あ、自分刹那のブロマイド持っていますよ! いりますか?」


 ……なんか速攻でエルサに推し変している奴もいるし。なんなんだよこの界隈! まったく理解できねぇ!

 理解を諦め、刹那を促してオフ会を始めることにした。


「よく集まってくれた眷属どもよ! 我の血が震えるぞ!」


「「「ブラッド・スプリング!」」」


 おぉ、オタクたちが一斉に声を出したぞ!

 一応エルサも練習の成果を発揮して、刹那に応じた。顔は驚くほどに真顔だけど。


「いやはやガチ眷属とは。やりますねメイド嬢」


「…………」


 完全無視を決め込むエルサからオタクたちは段々と離れていった。

 まぁ、気持ちはわかるぞ。そんな対応されたら心折れるよな。


「では最狂乱の宴の会場へ入ろうではないか! そして眷属たちには今日の座席表がある! よく確認せよ!」


 要するに時間になったから中華料理屋に入るよ。座席表あるから見ておいてね。ということだ。

 座席表にはしっかりと刹那の横に晴人と書かれていた。で、俺の横にはエルサと。


 一応刹那の逆隣も確認しておこう。えっと……『ヤミー!』。なんだこれ。名前か?


「おぉヤミー! 氏もこちらに来ていたか!」


「当然でござるよ。刹那はアイデンティティでござるからなぁ」


 チェックシャツ、チノパン、メガネ、リュックサック。なんだこのステレオタイプなオタク像詰め込みセットは。

 これがカルマーなら逆に心配になるわ。たぶん白。間違いなく白。ミスリードでもなんでもない白だ。


 おっと、オタクを観察している場合じゃなかった。

 俺とエルサは刹那の護衛のために彼女にピッタリとくっついて入店した。そして着席まで、ひと時も離れることはしなかった。

 エルサに目配せし、念の為ヤミー! って奴の机下にチェーンを仕込んでおく。マジで念には念だ。


「ふっはっはっはっ!」


 全員が着席したところで刹那が高笑いした。


「それでは中華コース120分を開始させていただきますね」


「あ、はい」


 そのタイミングでロン毛な男性店員さんが確認に来たため、刹那は一瞬素に戻ってしまった。店員さんは刹那の温度差のせいか、笑ってしまっている。


「気を取り直すぞ。最狂乱の宴へようこそ我が眷属たちよ!」


「「「サンクス・マイ・ダークネス!」」」


「我の血が震えるぞ!」


「「「ブラッド・スプリング!」」」


「生け贄をたくさん用意した!」


「「「死という名のスパイスを我が闇に!」」」


 この定番のやり取りを行い、オフ会という名の中華料理食べ放題120分コースが始まった。そして、俺とエルサの仕事も始まったのである。

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