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018 エルサのハグ

 帰宅後、俺はなぜか正座をしている。

 なぜだろう。

 いや、エルサの圧に負けたのだ。自問するまでもなかった。


「あの、エルサさん。違うんです。別に何もしていないです」


「何もしていないのに、ハルト様からあの女の匂いが強く香ってくる。おかしいですよね?」


 あの女とは刹那のことで違いない。

 雷が落ちた時に抱きつかれたせいで、彼女の匂いが俺に強くついてしまったみたいだ。なぜそれを嗅ぎ分けられるのかは一旦置いておくことにする。


 ……いや、なぜ俺は正座させられているんだ? 別に誰の匂いがつこうと勝手だろうに。

 なんかバカらしくなってきた! もう知るか! 正座なんてやめてやる!


「ひょ!?」


 足を崩した瞬間、エルサのチェーン付きクナイがぶっ飛んできた。


「馬鹿野郎! 賃貸だぞ穴空いたらどうするんだ!」


「クナイの扱いは心得ています。ご安心を。ただ、次はハルト様の体に穴を空けますからね」


 下半身の中心にあるものがヒュンっとした。

 これは俺の本能が命の危機を知らせていやがる。絶望だよこんちくしょう。


 俺は観念し、起きたことをすべて話した。

 ってか全部話す気だったぞ。なのに帰ってきて早々に「あの女の匂いがする」とか言い出して正座させられてこれだよ。どうすりゃいいってんだ。


「なるほど、胸に飛びついたわけですか」


「話聞いてた? 抱き寄せられたんだよ。ってか大事なのはそっちじゃなくてボウガン野郎だろ」


「ハルト様でも撃退できたのならわたくしは余裕で対処可能ですので」


「あーそうかよ」


 いいですね、強いやつは。

 なんで俺こんなやつをメイドにしたんだろ。性格もいいとは言えないし、優しくないし、顔がいいし、胸がでかいし、いい匂いするし、スタイルいいし、好きだし。


 ……なんか勝手に完結してしまったな。


「で、抱き寄せられたんですよね?」


「それ引っ張る? そうだよ、抱き寄せられたんだ。こっちから行ったわけじゃない」


「で、ではこういうシチュエーションだったのですね」


「えっ……」


 エルサは俺の不意をつき、彼女の胸に俺の顔を抱き寄せてきた。

 つい3時間ほど前に刹那にやられたことを、いまエルサで再現している。完全再現できていないのは胸の柔らかさだ。大きいと、ここまで柔らかいんだ。大きいと、ここまで柔らかいんだ!


 心の中で反復するほど感動した。刹那にやられた時も嬉しかったが、エルサにやられると脳に溢れる幸せ成分の分泌が数十倍増える気がする。

 あぁ、俺はこの女に何をされようと、結局嫌いになれないんだろうなぁ。


「ハルト様、ご気分はいかがでしょうか」


「最高です」


「素直でよろしいですね」


「お前には一生逆らえない気がする」


「プロポーズですか? 収入が安定していないので無理ですごめんなさい」


「勝手に解釈して勝手に断らないでくれる?」


 収入が安定すればOKしてくれるのだろうか。

 まぁ、そんなどうでもいいことを今考える必要はないか。


「話を戻すぞ。ボウガン野郎についてだ」


 名残惜しいが、エルサに抱き寄せられる至福の時はここで終わりだ。

 下手に話を戻すと言っても、こいつならまた変な方向に持っていきかねない。だから話の内容を固定してやるのだ。


「ただのボウガンでしたらカルマーを疑う必要もなさそうですけどね」


「確かにな。カルマーなら手っ取り早く銃で殺してきそうだ」


 ボウガンしか手に入らなかったとかじゃない限り、わざわざ矢の装填など面倒くさそうなボウガンを選んだりはしないだろう。


「それに刹那とかいう娘をカルマーが狙う必要性を感じません。強いて言うのならハルト様との接触ですが、そこを見られていたのならここを潰しに来るはずです」


「だよな。そこは俺もそう思う」


「であるならば彼女のアンチの犯行でしょう。警察には伝えましたか?」


「一応事件の概要は帰りのバスで多島さんに送ったよ。返信は……あっ、来ているな。『また厄介なものに首突っ込みやがって』だとさ」


 あの人らしいな。とことん俺たちには平和に過ごしていてほしいようだ。


「警察と連携してオフ会とやらでは警護しましょう」


「いや、それはやめておこう」


「なぜです?」


「犯人の狙いはあくまで刹那だ。もし警察を動かして大事になり、犯人を刺激したりしたら周りの刹那ファンを無差別に攻撃するかもしれない」


「なるほど……」


 だから今回、多島さんには動かないで俺に任せてくれと伝えてある。

 あの人のことだから納得はしてくれないだろうけどな。


「それと、相手がもしカルマーだったとしても当日はおそらくボウガンでは来ないだろう。理由は分かるよな?」


「オフ会がどういうものかはわかりませんが、飲食店にボウガンのような大きいものを持ち込んでいたら不自然だから、ですよね?」


「その通りだ。それこそ一之瀬星華みたいにベレッタ・ナノのような小型武器でやってくる可能性が高い」


 服や小さなカバンにも隠し持てるからな。

 身体検査をするべきなのかもしれないけど、それこそ犯人を刺激する可能性がある。あくまで俺たちは後手に回り、犯人が動いたタイミングでそれを潰す。そうするしかない。


「ハルト様、おひとつ提案がございます」


「おう、聞かせてくれよ。元殺し屋側からの意見を」


 俺はエルサから意見を聞いて、当日の警護に備えた。

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