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にゃんこ騎士、身バレする

相変わらずの亀更新…すみません

誤字報告ありがとうございます


 不穏な音を立てて軋んだ扉が、次の瞬間大きく開く。


「やばい、遅くなった!」

「間に合ったか……!?」


 そこに現れたのは、レティシアを倉庫まで連れ出した残りの二人。騎士の装備のまま、重たい扉を瞬時に開け放つほどの慌てた様子で駆け込んでくるのを見て、アルフレドが眉を顰める。


(まだ仲間がいたか)


 レティシアを抱きすくめるようにしながらアルフレドが後ろに大きく跳んで距離をとると、後から現れた二人が目を丸くした。


「え、どういう状況だこれ」

「なんだあの穴?鉄壁は……奥か」

「間に合ってねぇ!!遅いんだよてめぇら!!」


 床下への穴と、そこから漏れる眩しい光に目をすがめる援軍に、穴に落ちたままの二人が俄然勢いを取り戻し、ぎゃんぎゃんと怒鳴りだす。


「いいから早く助けろ!」

「逃がさねぇぞ鉄壁ィっ!」

「なにやってんだ、あんたら……」


 呆れた顔で慎重に穴に近寄る二人と、怒りと屈辱で目を血走らせた穴の中の二人。


(一対四、か)


 アルフレドは素早く視線を走らせ、状況を確認する。


(最初の二人はともかく、後から来た二人は帯剣している。それに対してこっちは丸腰で、レティを護るのが最優先)


 腕の中で言葉もなく固まっているレティシアを一度強く抱きしめ、名残惜しく思う気持ちを振り払って呼吸を整えた。


(負けるつもりはないが、多少の傷は覚悟する。一気に距離を詰めて……さっき咄嗟に跳びのいたから、間合いは把握されていると考えるべき。なら、一旦灯りのない方に跳んで、方向転換。狙いは足元、やるのはあいつらが穴から出る前に)


 レティシアを背に庇い、低い姿勢で身構える。

 だが、助けるのに隙が出来るのを警戒してか、落とし穴の具合を確認した騎士服姿の二人は、穴の中から喚き声と共に伸びる手を掴もうともせずにアルフレドから目を離さない。

 

「あー……いや、そう怒るなって」

「ちょっと説明させてくれ!俺らはーー」


 取りなすような言葉を吐きながらも、その指先が帯剣している腰に伸びた瞬間、アルフレドの足が床を蹴った。


「っ、はやっ」

「しまっ、後ろか!?」


 慌てて飛び退く二人の、片方に狙いをつけて足元をしなる腕で薙ぐ。なんとか躱しながらも足を掬われ体勢を崩した騎士が、慌てて鞘ごと剣を抜いた。

 状況がわからないままの突然の襲撃に、みっともない悲鳴をあげてしゃがみ込む穴の中の二人には目もくれず、鞘ごとの剣を身を守るように翳して声を上げる。


「だから待てって!俺たちはーー」

「お前ら」


 だが、間近でその顔を見合わせたアルフレドが瞳孔の開いた目を瞠り、その言葉を遮った。


「この間レティの家を嗅ぎ回っていた奴らだな」


 冷静を保っていたアルフレドの怒りが膨れ上がり、目の前の男の喉がひっ、と引き攣れたような音を立てる。


 一人暮らしの女の家を嗅ぎ回る。どう考えても不埒な目的しかないその行為。それを見逃した結果が、今この状況。


 もし、あの馬鹿ヘンレイがレティシアが連れて行かれるのを見かけなければ。

 もし、あの下衆ヘンレイが悪意を持ってアルフレドを訪ねなければ。

 もし、俺が間に合わなかったら。レティシアが身を守る術がなければ。万が一のことがあったならーー


「ぐっ!」

「ベリアス!」


 軽鎧の喉元を掴み、獣人の腕力をもってひしゃげんばかりに体に向けて押し付ける。身を守るためのそれに体を締め付けられ、ベリアスと呼ばれた騎士は逃れようとたたらを踏んだ。


「う……っ、い、息ができな……っ」

「っ、アルフレド、その手を離せ!」


 慌ててもう一人が鞘ごとの剣を振るうと、アルフレドは慌てた様子もなくそれを躱し、手を離して距離を取る。

 床に膝をついて咳き込むベリアスと呼ばれた騎士が恨めしげにアルフレドを睨め付けた。


「ゴホッ、ゴホッ……チッ、平民上がりはまともに話も出来ねぇのかよ!」

「仕方ない、抜くぞ!相手は丸腰、少しはビビって」

「ヒッ」


 だが元より傷を負う覚悟をしていることに加え、レティシアに邪な企みを向けたことに頭に血がのぼったアルフレドは、ただ真っ直ぐに正面から突っ込んでいく。

 躊躇いのないそれに顔色を悪くした騎士二人が、慌てて抜き身の剣を構えて攻撃に備えてーー



待てステイ


 鋭い号令に、誰よりも早くアルフレドがぴたりと動きを止めた。


 かつん、とわざと響かせる靴音。注意を向けるための合図であるそれに、アルフレドと騎士たち三人は反射的にばっと視線を向ける。

 そこには灯りの点いた手燭に照らされた、無表情の鉄壁メイド。

 彼女はいつもより更に温度のない瞳を、抜剣している騎士二人に向けた。


「騎士の剣を私闘に使うことは許されません。納めなさい」

「……は」

「申し訳ありません……」

(え、お強い……)


 大人しく従う二人に目を瞬かせ、アルフレドは毒気の抜けた顔でレティシアを見つめる。

 次いで向けられた視線に思わず頬を緩ませかけ、しかしその冷えた眼差しに目を見開いた。


「レティ……」


 なぜそんな目で自分を見るのかと、憤怒に駆られていてことも騎士たちと対峙していたことも忘れ、悲しげな顔でおろおろと歩み寄ろうとするアルフレド。

 先程までの壮絶な怒気はどこへ行ったのかと、騎士は顔を見合わせる。

 それを視線で制したレティシアは、頭の先から足の爪先までアルフレドを視線で舐めた後、問うた。


「アルフレド様はなぜここに?」

「レティがこいつらに連れて行かれたと聞いたから……」

「どうしてここがわかったのです?」

「匂いを、辿って……」

「壁を登って、天窓から入り込んだ?」

「うん……?」


 問いの意味がわからず、アルフレドも首を傾げる。

 わざわざ聞かずとも、さっき天窓から入り込んだ自分に気付き、足場がないまま飛び降りたのを抱きとめてくれたのはレティシアで……


「あ」


 いつの間にかーー多分、新たな敵が入ってきた時に、ついうっかり獣化を解いてしまっていたことに気付いて、全身からさぁっと血の気が引いた。

 暗いとはいえ見逃すわけもないような、レティシアの目の前で。

 薄明かりの中でもわかるほどに青褪めたアルフレドを見て、レティシアの口から長いため息がこぼれる。


「私の見間違いではないようですね、『レート』」



 ーーバレた。


 暗かったのでもしかしたらという希望は潰え、やはりしっかり見られていた。いや、誤魔化すつもりはないし、いつかは話そうと思っていたが…………


(嘘です!口説くことで頭いっぱいで獣人もろもろは何も考えてなかった!!)


 アルフレドは思わず跳ね退き、頭を抱えてしゃがみ込む。

 嫌われた?軽蔑された?確認するのが怖い。レティシアの顔が見られない。


 この国では獣人は決して見下されるような存在ではない。公表してないとはいえ、騎士団に獣人申請している騎士として、爵位を賜ることに支障がないくらいだ。

 だが、完全な人間と同一ではない存在であるのは確かで、全くの差別を視線を向けられないわけではなくて。


 獣人であることーーそれも、獣化するほどの血の濃さを黙ったまま想い人を口説いたところで、その想いが本気だとは受け取られはしないだろうくらいには不誠実な行為だと思い当たり、アルフレドは慌てて釈明のために立ち上がった。



(嫌われるとか、そんなのを怖がってる場合じゃない)


「レティ、俺は」


(俺が本気だってことは伝えたいーー)


 その一心で、覚悟を決めてレティシアを振り返る。

 例えさっきと同じ冷たい目が自分を睨んでいても、それすら許されず視線を逸らされていても。


(ここで逃げるわけにはいかない!!)


 必死になって口を開こうとしたその時、まっすぐ立つレティシアの背後にゆらりと影がゆらめいた。


「レティシア!!」


 叫ぶと同時に床を蹴るアルフレド。

 ーーしかしその伸ばした手は、虚しく空を切った。




 



私の書くヒーローはなぜか致命的にヘタレます。

ヘタレ好きで困っちゃう(反省しろ)

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