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にゃんこぺったんこ

アルフレド視点

前回のが長くなったので分けたら、逆に短くなりました。

無計画ですみませぬ。


(レティシアは俺のことをどう思っているのか)


 そんな恋する乙女のような思考に釣られ、レティシアの救出を一旦回避したアルフレドは、再び飛び上がる羽目になった。

 レティシアが、ばぁん!と高らかに手を打ち鳴らしたためだ。


待機ステイ

「「「「はっ!」」」」


 ぴたりと口を閉ざし、揃って返事をした令嬢たちが、流れるように横一列に整列する。互いの間隔までがきちりと揃う、整然としたその様子にアルフレドは目を瞠った。

 なんだこのキレキレの動き。ドレス着てるんだぞ。


 その令嬢たちに向かい、レティシアは姿勢をより一層正して諭す。その体から発する圧に、アルフレドも慌てて前足を畳んで香箱座りをする。


「尊き王族の住まう場所で感情的に騒いでは、善き殿方からの評価を落とすと申しましたでしょう」

「も、申し訳ございません、師匠」


 先程までの怒りもどこへやら、代表して詫びるサムウェル嬢に倣い、令嬢たちが手本のように美しい姿勢で頭を下げた。

 まさかの光景に、アルフレドは呆然とする。


(伯爵令嬢がメイドに頭を下げた?)


 アルフレドの知る貴族なら、身分の劣る相手に絶対に非を認めたりしない。レティシアはそれだけ尊敬されているということか?

 確かに、それも頷けるほどの威厳をもって、レティシアは言葉を続ける。


「情報を精査せず噂を鵜呑みにするのは、王の忠臣たる貴族としての責務を軽んじる行いですよ。……とは言え、私の振る舞いが誤解を招いたのも確かですから、そこは私の至らぬところでした」


 令嬢たちを上回る優雅な一礼に思わず見惚れる。


(ーーもしかして、レティシアは)


「誤解、ですか?では、アルフレドに抱きしめられていたと言うのは」


 アルフレドの思考を遮ったのは、令嬢らしくことりと首を傾げるサムウェル嬢の問い。

 途端、うぐっと言葉に詰まる小さな音が聞こえた。


「……誤解、ではなさそうですが」


 にこりと笑うサムウェル嬢と、その隣でひそひそと会話を交わす令嬢たち。ざわつく場に、レティシアが慌てたように胸の前で手を振った。


「違うの、です!…………昨日、アルフレド様に……ンッ、抱きしめられていた、と、言うのは、そういう色ごとめいたものではなく、ですね」


 令嬢たちの熱烈な視線を一身に受けて、急に言葉がたどたどしくなるレティシア。いつもの冷静な顔をよく見ると、耳がほんの僅かに赤い。


(……もしかして、照れてる?)


 そう、照れている。あの鉄壁メイドが。俺に、抱きしめられたことを思い出して?


「ンンッ……とある方に貶められた、私の名誉を守っていただいた、と申しますか……そう……あれは、アルフレド様の騎士道というものだったのではと!」


(え、待って可愛い)


 咳払いで動揺を誤魔化しながら言い切ったレティシアに、しんと場が静まり返る。向けられていた令嬢たちの視線が、妙に生暖かいものに変わっているのが、隠れているアルフレドにもわかった。



「コホン……。師匠の見解は承りましたわ」

「よかったです!」


 サムウェル嬢が妙な沈黙が満ちた場を取り成すように、咳払いをしつつ、口を開く。

 理解を得られたことに目を輝かせるレティシア。


「アルフレドは師匠の名誉を守り、師匠はそれにときめいてしまったのですね」

「とっ……!?」


(えっ、だから可愛い)


 動揺する彼女を見たのは二度目。

 一度目はアルフレドが猫の姿だったせいだが、今は違う。

 令嬢の指摘とは言え、『人間のアルフレド』が、鉄壁メイドの鉄壁を崩したのだ。


(ヤバい、これは……嬉しい)


 じわじわと込み上げるむず痒い歓喜に、口元がによによしてヒゲがふるふると揺れる。



 ぱん、と音を立てて、サムウェル嬢が扇を開いた。

 貴族令嬢らしく口元を隠し、同じようにによによした口元を隠した周りの令嬢に視線を流して、微笑む。


「将来有望ですのに手垢のついていないアルフレドなら籠絡するのも容易いのではと思ったのですが、師匠のそのようなお顔を見てしまえば、これ以上何も言えませんね」

「そっ……そのようなとは、どのようなものでしょう!?」


 鉄壁は、一度崩れるとなかなか立て直せないらしい。

 目を泳がせるレティシアに、年下の令嬢たちが微笑ましそうに目を細めて顔を見合わせる。


(え、俺ってちょろいから狙われてたの?)


 アルフレドは初めて知る自身への評価に軽くショックを受ける。


「わたくしたち、折角捕獲の腕が上がったのだから、もっと上の獲物を狙っていこうと思いますの」


(え、俺って雑魚なの?)


 更にショックを受けるアルフレドをよそに、令嬢たちはきゃあきゃあと持ち前の華やかさを発揮して、レティシアを囲む。


「ねえ、ししょ……レティシア様。もっと私たちとお話ししてくださらない?」

「まぁ素敵!」

「えっ……その、講義ではなく、ですか?」

「ええ!」

「是非ともお茶会にいらして?」

「え、ええ、ありがとうございます?」


 賑やかに去っていく令嬢たちを見送り、アルフレドはしおしおと耳と尻尾を寝かせて地に伏せる。


(…………やっぱり、女は怖い)


 アルフレドの予想通り、昼はレティシアと過ごすことは叶わず、午後からはまた謹慎になった。





そういえば、マルフタハチ=おにわです

どうでもいい笑

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