8 水晶の森
代筆してくれる、っていう『文字司のレイラ』はこちらかしら?
わたくし、ポローネと申しますの。
代筆して欲しいのは、わたくしの昔の話・・・水晶の森、って題名がいいわ。
お願いできるかしら?
・・・わたくしポローネは、魔法石の街で働く十九歳の美女でした。
美女って言っても、大衆受けするかどうか分からないタイプだけど。
ボッコルっていう老爺の経営する魔法屋『ボッコルストーン』にいたの。
収集から加工、宣伝、自家販売をしているお店。
そこでわたくしと老爺はひっそりとつつましやかに暮らしていたの。
ある日、育て親のボッコル爺に連れられて、『魔法石の山』に入った時だった。
予感がしたの・・・気配、みたいな、匂いに気づくみたいな不思議な感覚。
ここを掘ってみたい、と言って「どれ」とボッコル爺がスコップを入れると、
三回目で珍しい石が出て来たの。
嬉しかった。
しばらくはその秘密の場所で採掘して生計をたてていたの。
顔がうもれそうな毛皮をまとったお客さんが増えたりしたわ。
あと、梅干しが一番好きな食べ物だ、って言う青年が初恋相手だった。
わたくしからしたら、今でもかっこいい美青年よ?
まぁ、恋人未満な関係だったけど・・・
それから数か月後、初恋の相手が毛皮のおばちゃまと結婚した頃だったわ。
秘密の採掘場所が知れて、使えなくなったの。
そういうのはわたくしには難しくて、ボッコル爺は「仕方ない」って言うの。
ボッコル爺が「仕方ない」って言うと、「ああそうなのか」って思ってた。
十九歳になって、ボッコル爺が言ったの。
もうすぐ二十歳を迎えるが、『いいひと』と結婚する準備をしなさい、って。
今『いいひと』がいないなら、魔法石屋を継ぐことも考えておきなさい、って。
わしはもう長くはないから、って。
わたくしは結婚を考えていなかったから、魔法石の専門家になる道を選んだわ。
そしてボッコル爺と共に、一流の収集家じゃないと入れない森に行く許可が出たの。
そこが、『水晶の森』。
水晶の森・・・そこからは、必要な分しか採掘したらいけないの。
それは昔むかしから統計学的にも医学的にも、なんらかの信憑性を持っている。
ただ、科学的ではないでしょうね。
科学の分野ではないと思うから。
だからって、非科学的っていう言い方は『魔宝石の街』の考え方にはないわ。
魔法石にはそれぞれの属性と特性があって、力の効果が違うの。
護ってくれたり、癒してくれたり、補助してくれたり・・・魅力的でしょう?
その中でも群を抜いてすごいのが、『水晶』。
そして『水晶の森』に入るには、特別な資格がいるの。
わたくしはその資格を取得して、ボッコル爺と水晶の森を歩いたわ。
綺麗だったぁ・・・
身丈の倍はある木々をつんざきそうな巨大水晶に、密集するこぶりなもの。
その煌きは、年中涼しいこの森と協和していて、畏れを抱かせた。
いしづき、って知っている?
キノコの束の根っこの部分。
わたくしたち魔法石の街の住人の中にも意外がるひとはいる話だけど・・・
水晶の森の水晶には、いしづきがあるの。
まるでキノコみたいに。
収穫まで育てておく造りも作業面であるの。
その森の敷地全体が、『いしづき』なの。
簡単に言えば、「だから 水晶が はえてくる」の。
水晶の森の水晶には、根っこがはえている。
植物のように。
これは当時、口に出してもメモに残してもいけないことだったの。
だから今更、代筆をお願いしている、って事情。
わたくし、文字の読み書きができないの。
・・・そして、植林があるように、植石ができるの。
どれが植林石に向いているか、どうしてかわたくしには分かったの。
そして協会に入ったのは、信託があったから。
わたくしは専門家の誰も見つけたことがない、水晶の森の泉の場所を知っていた。
そして泉の中に眠る、『クリア』を採取するよう信託で言われた。
それは水晶の森に住まう番人たちにも知らされて、私は裸で泉を泳いだ。
そこには『クリア』がはえていて、わたくしはそれを採取したの。
そしてね、番人の『森ドワーフ』たちが森の住人に言ったの。
もしかしたら、姫なんじゃねぇか、って。
わたくしは水晶の護りの意思『クリア』を採取できる特別な体質。
そしてそれは、水晶の森の住人の血筋であることを示す。
それから、『クリア』を採取できるのは、その森に住まう、とある貴族の血。
水晶の森に住人がいることは秘密とされていて、そこで赤子がいなくなった。
警察関連には言えなかった、ってこと、らしいけど、詳しくは知らないの。
当時、お金に困っていたボッコル爺はわたくしを誘拐した。
ボッコル爺は知っていた。
わたくしが採取していい魔法石の場所を肌で感じ取る能力を持っている血であること。
つまり水晶の森で言うところの、クリア姫という存在だった。
ボッコル爺はわたくしに、なにひとつ酷いことをしていないわ。
ただ、両親に対面して、わたくしは水晶の森に戻って来ることになった。
それから森の許嫁と結婚して、子供ができて、孫もできて・・・
あっと言う間ね。
今ではすっかりおばあちゃんよ。
文字の読み書きの機会はなかったわ。
先日、新たなクリア姫が誕生したの。
だから、代筆を記念にお願いしたいってこと。
お話を聞いてくれてありがとう。
――
―――――・・・
この記述はレイラと魔法の羽根ペンが代筆したことをここに記す。
[ 追記 ]
ボッコル爺がどうなったのか気になるんだけど、通信が切れてそこまでだった。
通信が途切れると、少し浮遊感がして終わりを報せてくれる。
羽根ペン『ウィリー』だけど、レイラだって俺からしたらお姫様だぜ??




