2 聖堂の不思議水
私は『愛が形を成す泉』で生まれたの、と小人妖精が言った。
女性型の小背がアンティークドレスを着ていて、背中には虹色に透る羽根がある。
胸元を紐が編み上げるような、袖のゆったりしたドレスのレイラ。
レイラが小人妖精に名前をたずねると、「テラ」と名乗った。
テラの両親には両者、生殖機能がなく、それでも子供が欲しいと思った。
隣村の物知り爺さんに相談してみると、伝説の泉の話をされたらしい。
その泉は、「愛が形を成す」と言う。
その泉の中で愛し合う者たちが抱きしめあい願えば、形が成すことがある。
ただし、それが人間だとは限らない。
それでね、と話を続けようとしたテラを、隣にいた若いドレス美女が制した。
そのお話はそれくらいにして、儀式を始めましょう。
その隣にいる爪にまで黒い装飾をしている無口な美少年もうなずいた。
大丈夫、これは『白魔法の杯』だよ、とテラ。
そこに神聖なる不思議水を注いで、これからへの感謝で神妙の礼をするの。
形式をある程度聞いて、レイラは小さく何度もうなずいた。
白魔法の杯に、室内に水路のように渡された小さな滝がある。
その滝が神聖なる不思議水で、それをすくって飲めば幸運が訪れると言う。
両親もこの不思議水を飲んだの、とテラ。
そして誇らしげに、今、私はここに、存在して、いる、と。
まるで緊張しているレイラを元気づけようとしているみたいだった。
儀式が始まり、レイラは杯で水をすくって、飲む。
淡い光がレイラを包み、テラが「認められたみたいね」と言う。
じきに自分の特殊能力が芽生えてくるわ、とテラ。
それからね、私の自慢のお話の続きだけど。
天がもたらした両親への姿は、小人妖精、だった。
つまり、私。
そしてしばらく離れて暮らすことになったの。
私はこの聖堂に預けられて、
毎日さびしくて眠る前に泣いたわ・・・
それでね?とテラが続けようとすると、美少年が言った。
「気絶前の匂いがする」
対処を、と、ゴシックドレスを着た胸の大きい美女が動揺を見せた。
レイラは意識を失いかけていたが、それは力の覚醒のための準備らしいと診断。
少し休ませてもらって目が覚めると、妙に頭がすっきりとしていた。
首をかしげるレイラに、始終嬉しそうなテラが言う。
この聖堂で私も働くことになったの、って言いたかったの。
なにかあったら、よろしくね。
パパとママもそれでいい、って。
私もこの聖堂で働く、ってこと?とレイラ。
え、どうして?とびっくりする、テラ。
・・・も、って複数形を使っていたわ、とレイラ。
美女と美少年が、目覚めたことに気づいて近づいて来た。
テラが、パパとママのことを言ったの、と言う。
テラが示したのはまだ若い美女と美少年。
そしてふたりはその話題に同意して、テラの両親だと言った。
何故だか意外だったことを詫びるレイラは可愛い。
そしてそろそろ、特殊能力が目覚めだすだろう。
狼男の騒動の件も理解したかどうか、まだ曖昧な年端だ。
協会員になったレイラが、聖なる不思議水の聖堂を訪れた時の話。
少ししたら、能力試験だ。
この記述は、魔法使いの羽根ペンがレイラ嬢のために自筆したことをここに報せる。