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第七十四話 原材料は鈴木くん


「ちょっと!!何よこれ!!」

瑠衣は思わず声を荒げた。

テーブルに座り一人で先にマリファナを堪能している蔵井戸はのんびりとした様子で答えた。

「ああ、それあの変態野郎だよ。お前のタンポンでも漁りに来たんじゃねえか?」

「そんなの見れば分かる!それがなんでここで死んでんだよ!」

「そりゃあな、殺したからだなぁ」

瑠衣は仰向けで床に倒れている鈴木巡査の死体を避けるように進んだ。

首が異様なほどに伸びており微動だにしない、首を折られて死んでいるのだ。

「ちょっと何したか分かっているの!?こいつは警官なんだよ!!」

「ああ、そうだよ。警官だからこそだな、こいつを見られちまったからさ」

蔵井戸はそう言って最高級のサティバのイイやつを瑠衣にかざした。

駄目だ、イってる。最高にハイってヤツだ。

「あんたこいつの居場所を把握していたんじゃなかったの!?」

「ああ、言ったろぉ?デバイスは置いてきたって」

そう。赤の他人のスマホを自分の手に中にあるかのように操ることが出来るのがデバイスだ。瑠衣もそれで田中のスマホをハックしているのだ。蔵井戸はデバイスを置いてきたと言っていたし、それが無くてはどうにもならない。それは分かるが・・・。

「どうするのよこれを!!」

蔵井戸は気怠そうに立ち上がりサティバのイイやつを瑠衣に差し出した。

「また綺麗に流してやるよ。いいから楽しもうぜ」


また綺麗に流してやる。

なにを「また」「綺麗に流す」のか。瑠衣はそれの意味するところを考えたくないし、思い出したくもなかったし、忘れたかった。

だから素直に蔵井戸の差しだすサティバのイイやつを手に取った。


30分ほど前だ。

瑠衣がリュックを背負いビールを買いにマンションを出たところを、向かいにあるコンビニエンスストアの中から見ていた男がいた。鈴木巡査だ。

鈴木巡査は決して鋭いとは言えない自らの勘で瑠衣と田中部長の仲を感じ取り時間の許す限り瑠衣を監視していたのだ。

鈴木巡査は、リュックを背負い出かける瑠衣を見てまさか近所のドラッグストアにビールを買いに行くだけとは思わなかったのだろう。

鈴木巡査はコンビニエンスストアを出て瑠衣の住むマンションへと入った。瑠衣の自室には二度ほど招かれたことがある。

鈴木巡査は暗証番号を打ち込みマンションのエントランスへと入り、エレベーターで最上階へと進み合鍵で屋上へと出て瑠衣の自宅のドアも同じく開け中に入った。

密かに合鍵を複製するチャンスは二人が付き合っている最中にいくらでもあったし、鍵自体も単純で時代遅れのディスクシリンダー錠だった。

鈴木巡査は瑠衣がトイレに立った隙にカバンから鍵を取り出しスマホで撮影するだけでいい。瑠衣が持つ鍵は複数あった。車の鍵が一つにスイミングスクールの鍵が二つ。そして自宅の鍵だ。もちろんすべて撮影しておき、購入しておいたブランクキーを自分で削り複成したのだ。


瑠衣も、鈴木巡査が自分の周囲をうろついているのは蔵井戸によるサーチで分かってはいたが、その蔵井戸が自身の部屋にいてその脅威を忠告しなかったので気に留めることも無く買い物へと出てしまったのだ。


鈴木巡査は興奮を抑えきれないままに瑠衣の自宅のドアを開けると甘いような、どこか重い匂いがした。瑠衣の生活臭かと思ったが、こんな匂いは貝だ覚えがなかった。

だがそんな思いはすぐに消える。鈴木巡査の今一番大事なことは盗聴器をどこに仕掛けるか?だ。

もちろん一つはトイレだ。これでいつでも瑠衣の排泄音を録音できる。

涎が垂れそうになるのを抑え鈴木巡査はトイレのドアを開けた。

「え!?」

「あ?」

鈴木巡査は目の前にいる煙草を咥えた男が振り返り怪訝そうな表情を浮かべるの見た。

マズい!!鈴木巡査が踵を返し逃げ出そうとするのと同時に男の蹴りがヒットするのは同時だった。

小柄な鈴木巡査は壁に叩きつけられ尻もちをつき、必死に立ち上がろうとするところに股間に男の足がめり込んだ。

男の急所はペニスではなく睾丸だ、鈴木巡査のペニスがどれだけ粗末であってもダメージに違いはない。

鈴木巡査は声にならないうめき声を漏らし股間を抑え悶えた。

男は煙草を深く吸い、煙を鈴木巡査の顔に吹きかけながら聞いた。

「誰だおまえ」

この匂い、煙草じゃない。大麻か?

「・・・大麻・・だな・・それ」

鈴木巡査が顔を上げ男を見ながら辛うじて声を漏らす。

「ああ、お前あのロリコン警官か」

「誰だよ・・・お前・・」

「誰だって・・そりゃあ瑠衣のぉ・・・兄貴だよ。お前は瑠衣の彼氏だな?瑠衣から聞いてなかったか、沖縄から遊びに来たんだよ」

兄貴?瑠衣さんのお兄さん?

鈴木巡査は床に肘を突き何とか立ち上がろうとすると男が手を伸ばしてきた。

「悪かったな。でもよ、妹の部屋に知らない男が入ってきたら咄嗟に蹴りもするだろ?悪かったよ、ほら立てよ」

お兄さん?どうする?どうする!?瑠衣さんのお兄さん!マズい!逃げなくては!

顔を見られているし逃げたところでどうにもならないのだが、鈴木巡査の頭の中は今ここから逃げ出すことでいっぱいで男が伸ばした手を取った。

鈴木巡査の顔が僅かに浮き上がったところで男の蹴りに再び襲われた。顔面を踏み蹴られた鈴木巡査の頭部は床に叩きつけられ意識が遠のいたところで次はその顎を蹴り抜かれた。

首を折るには角度が大事だ。それさえ守れば人の首は思いの外に簡単に折れる。一番わかり易いのはデスクワークなどで疲れた時に首を鳴らすあの角度だ。真横でも真上でもない。首をわずかに傾け顎を上げるようなあの角度だ。

倒れている人の手を掴み床から頭部を少し上げ思いきり顎を蹴り抜くと人の首は簡単に折れる。

折れると言っても骨が砕けるわけではない、重要なのは首の骨の中にある頸椎の損傷だ。折れた首は頸椎を潰す。これは頭部に近いほど致命的となり頭部に近いうえ三つの損傷はまず助からない。

この時、鈴木巡査の頸椎の損傷はC4、つまり上から四つ目だったが男は更に二度、鈴木巡査の頸椎にダメージを与えていった。

こうして鈴木巡査は息絶えた。


瑠衣がサティバのイイやつを受け取るとテレビがオーロラのキュアフォーミーを流し始めた。


嘘をつきたくない。

でもそれは私を燃やし尽くすだろう。

自業自得だって分かっているけど。

戦いたくなんかない。

昼も夜も悪夢にうなされるだろうから。

でもあなたに助けてなんて決して言えない。


瑠衣は受け取ったサティバのイイやつをゆっくりと深く吸い込み、肺の中に充満させるようにつばを飲み込んだ。そして名残惜しそうにゆっくりと吐き出す。それを二回ほど繰り返すと、蔵井戸は瑠衣のジーンズをずり下げその股間に顔を埋めた。

瑠衣は唐突な刺激に足の力が抜けかける。


私はあなたを傷つけたの。

あなたと一緒にはなれない。

私が抱えていた気持ちは捨てるの。

あなたに投げ捨てる。

でもこれでいいの。

全て手遅れだったの。


「まって・・・」

「立ってられないか?」

蔵井戸は舌を這わせながら瑠衣を椅子に誘う。

瑠衣は身体を震わせながらもなんとか椅子に座ったが蔵井戸は瑠衣の股間に顔を埋めたままだ。

蔵井戸がこんなことをするとは思わなかった。

本当に仲間だと思っているの?

蔵井戸がこういう時に口を使うのはペニスかヴァギナに唾を吐き出す時だけだ。キスすらしない。

まあこの男にキスなんかされたくないけれど。

でも、今までこんなことした事無かったのに・・・。

瑠衣は手で蔵井戸の頭を抑える。もちろんその舌の動きを止め欲しいというわけではない。

瑠衣はその両手を蔵井戸の頭に当てたまま全身を震わせた。蔵井戸はそれを感じ一瞬だけ舌の動きを止めたがすぐにまた瑠衣の一番敏感な部分を舐めまわし始めた。

「ダメ・・・ほんと・・」

瑠衣は蔵井戸の頭を抑え引き離そうとするがイったばかりで力が入らない。

すると以外にも蔵井戸は顔を上げ立ち上がるとズボンを脱ぎ始めた。

蔵井戸のアレは瑠衣がするまでも無くすでに火がついていた。

瑠衣が何とかテーブルに手つくと蔵井戸はすぐに挿れてくる。

二人が接しているのはほんの一部なのに瑠衣は全身を震わせた。

それを鈴木に見られていると思うと更に興奮する。

見せつけてやる。あの男では決して女性には与えられないであろう快楽を見せつけてやる。

あの火が付いてもサムアップした親指程度しかない、小さな蝋燭のようなペニスでは瑠衣に火を点ける事は出来ない。

あの男もそれが分かっていたのだろう。瑠衣に手を出すのを恐れていた。その代わりに排便しているところを見たがったり、それを拒絶されると自身のそれを見てくれだなどと性的に倒錯した欲望しか持てなかったのだろう。

完全に違法なロリコンビデオを収集していたのも、あの粗末なペニスでも幼女ならば喜ばせることが出来ると思っていたからだろう。


アンタが喜ばせることが出来る女なんてこの世には一人もいない。

だがこの男は違う。蔵井戸は私を満足させてくれる。

よく見てなよ。

瑠衣はまた全身を震わせた。

だが鈴木巡査は見てはいない。鈴木巡査は既に死亡しているのだ。


瑠衣は椅子に座り息を整えつつ缶ビールを開け喉を潤した。

汗と淫靡な体液をシャワーでさっぱりとさせたいが鈴木巡査の死体が風呂場の前に横たわっている。

まだアレをまたぐ気になれない。

「で、どうすんのよアレ」

「ああ、綺麗に流してやるって」

蔵井戸はそう返し自分も缶ビールを一つ手にし勢いよく喉に流し込み同じく椅子に座った。

「でもアンタ、デバイスを酒屋に監視されているんでしょ?」

そう、瑠衣の母を下水に流したあの青いバレルは普通のスマホを使ってアマゾンで買える物ではないはずだ。当然、デバイスの向こう側の力であるハックエイムとか言うシステムの力だ。

アレを購入した言う事は死体があるという事だし、それが酒屋に知れるのはマズい事なのではないか?

「ああ、その通りだ。お前のデバイスを出せ」

瑠衣は蔵井戸に言われるままクローゼットのかけられた決して着る事のない黒いコートのポケットから自身のデバイスを取り出しテーブルに置いた。

「いや、お前が操作するんだよ」

テーブルに置かれたデバイスを蔵井戸は顎で示す。

瑠衣は口に運びかけた缶ビールを静かにテーブルの置き直すと軽く首を傾げ蔵井戸を指さした。

「違うぜ。言っておいたよな、デバイスのパスワードは誰にも教えるなってよ」

「アンタにもって事?」

「そうだ、誰にも教えるなって言ったら、誰にもだ。それを教えるってことは首に縄を掛けて死刑執行のボタンを他人に預けるってことだ。俺だってお前のボタンは押したくねえからな」


引き返せない。

瑠衣は諦めてデバイスを手にした。

「で、どうするの?」

「サイドキーが三つあるだろ?それを同時に全部押せ」

「押したよ」

言われた通りに押すと画面には普通のスマホのように電源を切る、再起動、ロックダウンの三つの選択肢が表示された。

「ロックダウンさせろ」

「やった」

「もう一度サイドキーを押せ、パスコードのパターンを言う通りに入力しろ。まず1,4,7だ」

瑠衣は言われた通りにテンキーの上に線を引いた。当然エラー表示が出た。瑠衣のパスコードは7412359だ。まるで違う。

「エラーだけど?」

「次は3,4,9だ」

「入れたよ」

当然、またエラーだ。

「最後に7,4,1,5,3,6,9だ」

「7,4,1,5,3,6,9ね。入れたわ」

当然エラー表示が出たがこれまでと違うのは

【このスマートフォンはロックされました。使用不可能です】

という表示と共に自動的に電源が切れてしまったという事だ。

「これは?電源が切れたわ」

少しばかり不安になった瑠衣が顔を上げると缶ビールを片手にニヤ付いている蔵井戸の顔があった。

まさか!?

電源を入れようとサイドキーを押しても全く反応がない。

「アンタまさか!」

つい先ほど蔵井戸の口から吐かれた死刑執行ボタンという言葉が勢いよく脳裏に戻ってきた。

蔵井戸がニヤ付いたまま小さく首を振った。

「何をしたの!?」焦った瑠衣は勢いよく立ち上がった。

蔵井戸はそれを見て困惑と言うより呆けた顔で瑠衣を見た。

「なにって、まだこれからだぜ。座れよ。いやついでにビールもう一本頼むぜぇ」

ラリってるだけ?

瑠衣は冷蔵庫から缶ビールを取り出し蓋を開け蔵井戸の前に置いてやり再び椅子に座った。

「それでな、画面に大きくHと書け。画面の端から端まで使って大きくな」

「電源が切れちゃったわよ」

「切れてねえから言われた通りにやれ」

瑠衣は半信半疑で蔵井戸の言うとおりに真っ暗なデバイスの画面を【H】となぞると文字入力画面が表示された。

本当だ。電源は切れていなかった。

「ショップが出たろ?」

「ショップ?これが?」

「そうだよ、じゃあそこにジュースメーカーって打ち込め。でアシッドとアルカリって出てくるからアルカリを選べ。エコだからな」

瑠衣は蔵井戸に言われるままに入力していった。

バレル、原液の数。受取場所、時間などだ。


「料金とかないの?タダ?なわけないよね」

瑠衣は当然の疑問をぶつけた。

「ああ、悪いが今回はお前の口座から引き落とされるだろうな」

「え?でもカード番号も何も打ち込んでないわよ」

「ハックエイムは何でもありなんだよ。言っただろ。ウソだと思うなら口座残高でも調べてみるんだな。」

「これは?」瑠衣はデバイスを指さして聞いてみた。

「もういい、しまっておけ。まあ配達は1時間くらいはかかるだろうからな。もう一本ヤるか?」

蔵井戸はそう言って二本目のサティバのイイやつを取り出した。

もちろん瑠衣が首を横に振ることは無い。


二人は届いた装置を屋上へと運び込んだ。

「部屋の中の方が良いんだが、ここなら大丈夫だろう」蔵井戸はそう言ってマンションの屋上に建つ小屋のような瑠衣の部屋の後ろに設置した。

青い大きなバレルが三つに薬液の入った容器が四つ。蔵井戸は手際よくそれらをチューブで繋いでいった。

バレルの一つに薬液を三つ入れ、一つには屋上に設置されていた清掃用の蛇口からホースで水を満たした。最後の一つには鈴木の死体が収められている。

蔵井戸はもう一度、全ての容器とそれを繋ぐチューブの類を念入りの確認し、最後のもう一度容器の蓋がしっかりと締まっていることを確認すると循環器と言う機械を取り付けスイッチを入れた。

微かなモーター音が鳴ると薬液が移動し始めた。


蔵井戸は作業は終えたとばかりに手を叩いた。

「あとはこれが空っぽになるまで待つだけだ。間違っても開けたり触ったりするなよ、火傷じゃ済まねえからな」

「どれくらいかかるの?」

「そうだな1週間はかからないと思うが。まあコイツはチビだし意外と早いかもな。なるべく目につくことが無いように部屋の裏に置いたんだ。マジで開けたりするなよ、匂いが酷いからな」

「そう・・これはなんなの?」

「まあ寒いからよ、部屋に入ろうぜ」


「さすがにビールはきついな、なんかコーヒーかなんか淹れてくれないか」

「紅茶ならあるわ」

「それでいい」

瑠衣はお湯を沸かし紅茶を二杯淹れ一つを椅子の座る蔵井戸の前に置き、自分もテーブルについた。

「で、あれは?」

「ジュースメーカーだよ。バレルに入れたジュースは強アルカリ性で肉を全部溶かす。これは早いんだが骨は解けないからな。骨は強酸性のジュースが溶かしてくれるんだがこっちはちょっと時間がかかる」

「水を入れたやつは?」

「アレは薄める用だ。ジュースをそのまま流すと匂いも酷いし場所によっては下水管まで溶かしちまうかもしれないからな。まあ後は装置が全部うまくやってくれる。待つだけでいい」

瑠衣は震える手を抑えるために紅茶の入ったカップを大事そうに両手で持った。

蔵井戸も身体を温めようとカップを手にしたが何か重大なミスを犯したかのように口を開けた。

「あ!やべえ!?」

「なに!?」

「あのチビのメガネ外し忘れたな」

「そんなこと!?びっくりさせないでよ、メガネくらい溶けるんじゃないの?」

「メガネは溶けねえだろうな。どんな薬品でもガラスの容器に入っているだろ?プラスティックもまあ無理だろうな」

「メガネくらいどうでも良いでしょ」

「まあな。でももう取り出せないからな。最後に残っているだろうからその時はちゃんと始末するんだ。ツルとレンズは別にして踏んづけてブッ壊して必ず別々に捨てろ。間違ってもそのまま捨てたりするんじゃねえぞ」

「分かった・・・」


メガネ一つをそこまで気に留めるなんて。

瑠衣は少しだけ安心した。

両手の震えが少しだけ収まった。















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