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余談

知り合いの知り合いの元人食い族のオッサンが唇が一番おいしいよと言っていた。

東京都心の地下にあると噂される会員制秘密倶楽部。

MAEVE。

それは実在する、雑司が谷から護国寺にかけての広大な地下に。


MAEVE。

墓場を冠と抱くそれは、訪れる者には天国だが、堕ちてきた者には地獄でしかない。


東京の地の底にあるMAEVEには日本の法は迄ばず人権や生存権と言った屁理屈も通用しない。

MAEVEになんらかの権利が存在するとしたらそれは数十万年前から人類が持つ、本来の意味での人権だろう。

いや、この権利は数億年前からこの地球に存在した全ての生命体が持つ権利。


それは他者を殺す権利だ。


地球上に生まれた全ての生命体は他者を殺す権利を有している。あらゆる生命体はその全てが他者を殺すことによってのみ自身が存在し続け得る権利を有することが出来るからだ。


だがその権利は手にしているだけでは無意味だ、行使しなければならない。そして行使するには力がいる。

力を持ちその権利を行使し続けられた者だけが生き残り得るのだ。


他者を殺す権利を行使する力。義務と言い換えてもいい。義務を持たずして権利は行使できないのだ。

そして地球史上最も強い義務を有しそれに伴う圧倒的な権利で他者を殺して続けてきた者こそが人類だ。


力があるからこそ他者を殺す権利を振るうことが可能であり、それは同時に他者に殺されない権利でもある。


今、地上でまかり通っている人権と言う物は、殺す権利を見ずに殺されない権利からも目を背け「人として生きる権利」などと言う人権と言う物が持つ本来の意味から全く外れた欠片ですらない。

力なくしてどうしてその権利が振るえるというのだ。

こんなものは支配者が弱者と愚者に何も与えずに言葉だけで丸め込むための屁理屈でしかない。


MAEVEに権利が存在するのならその唯一は人権、他者を殺す権利だけだ。そしてMAEVEに義務が存在するのならばその唯一は金だ。


MAEVEでは金さえあれば何でも買える。金さえあればどんな高価な美食であっても法外なドラッグでも、映画に出てくる美女でさえも買うことが出来る。

もちろん人の命でさえもだ。


何でもだ、金さえあればMAEVEで買えない物はないし出来ない事も何一つない。


例えば美食。

MEAVEで供される最も高価な食事はたった二切れの肉が乗った一皿でそれは数億円に及ぶ。

もっともこれを味わえるのはMAEVEでも最高ランクの会員、ブラック会員だけだ。

ブラック会員になるためには様々な条件が課されるがその中でも最も簡単な条件が10億ドルの資産を有する事。日本円で1500億円と言ったところか。


MAEVEで数億円のディナーに供される物、それは人の肉。

MAEVEでは人肉を一番高価な美食とする奴らがいる。


その一皿の上に乗るのはドラッグと縁のないタバコも吸ったことが無い22歳から24歳までの処女の頬の肉、唇添え。

飲酒の習慣は考慮されないがテーブルに乗る三日前からアルコールを摂取することは厳禁となる。肉の舌触りが落ちるからだ。


なぜ腕の肉でもなく脚の肉でもなくよりによって顔の肉なのか?

それは顔の肉こそが、人肉足り得るものだからだ。


かつて赤道直下のジャングルに住み原始的な生活を送っていた種族は、部族間の抗争で敵を殺しその顔を食っていたらしい。

それを食うのは食料としてではない。腕や脚ではなく面と向かって石と木で殺し合いをした敵の顔を食う事こそが勝利の証だったからだ。

そんな中でも一番の勝利の証は憤怒を叫び憎悪を吐き、最後には慈悲を求めた唇の肉だったらしい。


だからMAEVEを訪れる狂人どもは人の顔の肉を求める。


狂っているとしか思えないがそんな狂人たちにとっては、なぜ自分がここにいるのかすら分かっていない女の首を斬り落とし、その顔から頬と唇を削ぎ落としてステーキにして食べるのがこの世で最上級の美食なのだ。


少し考えれば、食われるために品種改良され続けてきた牛や豚それに鶏に比べて、普通に生きてきただけの人間の肉が美味いわけがないという事は誰にでも分かる。もちろんそんなことは狂人たちも分かっている。


ではなぜ狂人たちが人肉を求めるかと言えばそれは自らの富を知らしめたいからなのだ。

人間を食う事によって勝者として名乗りを上げたいからなのだ。


祷るためでも何かに捧げられるわけでもない哀れな生贄の首を斬り落とし、その顔の肉を削ぎ落しステーキとして食うとなればその一皿には数億円の値が付けられる。


だがそれは哀れな生贄の命に数億円の価値があるというわけではない。生贄が皿に乗るまでにかかわることになる職人たちも全て一流でなくてならないからだ。

生贄の処女の身体検査をする医師は名声を持つ医師でなくてはならないし、生贄の生首から唇を斬り落とし頬肉を削ぎ落しソテーする料理人は最高の名誉を持つ者でなくてはならない。

そこに初めて価値が生まれるのだ。


借金に塗れ僅かな報酬で喜んでやってくる者に価値のある物は産み出せない。


十億の富を得た人は一億の富を持つ者が口にする食事よりさらに高価なものを求める。

百億の富を得た人は十億の富を持つ者と同じ物を口にするという事に侮辱を感じる。

そして千億の富を得た狂人は自分以外が口にすることが出来ないであろう美食を求める。


それは絶滅が危惧されるよく知らない希少な野生動物の肉ではなく、世界中のどこにでもいる人間の肉なのだ。


MAEVEではそれが食える。

MAEVEでそれを口にすることが出来るのは総資産10億ドル、1500億円以上の金を持つ所謂ビリオネア。


MAEVEでそれを食う事で、自分の富が、自分の力が、自分が振るう権利がいかに大きいかを示すことが出来るのだ。


MAEVEでは金で買えない物はない。

MAEVEにはありとあらゆるエンターテイメントが用意されている。

金さえあればそれらを全て堪能できる。


拳銃使いの支配下に存在しているにもかかわらず、唯一拳銃使いの支配が及ばないエリア。

それがMAEVEだ。


そのうちの一つがDbD、Death Battle Domeと呼ばれるコンテンツ。

一言で言うと地下格闘技場だ。


陽の下にいられなくなり地の底に潜った凶悪犯罪者たちがたどり着いた地の底のさらに下の檻、それがDbDだ。


MAEVEに数多くあるコンテンツの中でもDbDは長らく人気のないコンテンツだった。格闘技場とはいえ誰もが知るボクシングの世界チャンピオンが登場するわけでもなく、角界の横綱が四股を踏むわけでもない。

そこに登場するのは誰だかもわからないただの素人崩れの凶悪犯罪者たち。威勢がいいのは最初の数分、あとは駄々っ子の様に手を振るいお互いをポカポカと叩きあうだけの遊戯でしかない。

そんなものはMAEVEを訪れる者達に限らず誰にとっても見るに堪えない茶番でしかない。


そこでMAEVEの支配者はDbDの参加者に10勝で自由になる権利と武器を与えた。

参加者は闘技者となり必死に殺しあうようになったがそれもただの殺人ショーでしかなかった。

ここMAEVEに来るものはそんなものは見飽きている。


だがそこへ蜘蛛の糸と共に降臨したのが一人の女性闘技者だった。

彼女はDbDをMAEVEで最も金が投じられるコンテンツへと変えた。


DbDに登場する女性闘技者は、闘技者とは名ばかりでレイプされながら殺される息抜きでありメイン戦の前の前座にすぎない。


だが彼女は違った。

彼女はすでに8戦8勝8KO。

DbDの最高連勝記録5をいとも簡単に塗り替えた闘技者だ。


彼女が初めてDbDの檻の押し込まれその鉄格子が閉められた時、彼女は自分がなぜここにいるのか、自分がなにをすべきかも分かっていない怯えるだけのただの生贄だった。

だがそれでも彼女は下卑た笑みを浮かべた屈強な男と共に檻に閉じ込められれば自分がこれから口にしたくないほどの悲惨な目に合うのかは分かっていた。

目の前の男に凌辱され最後は殺されることだけは分かっていた。

彼女は震え怯えるだけの生贄だった。

彼女のその両手にはめられた武器、ブラスナックルが無駄に金に光り輝いていた。

彼女はなに一つ抵抗することなく犯された。細い両腕で屈強な男の胸を押すのは抵抗とは言えない。彼女は犯され続けた。

男が事を終える直前にその両の手を彼女の首にかけると彼女は豹変した。


五分後には男の首の上は粉々に砕かれていた。

そして返り血を浴びて真っ赤に染まった彼女は叫び続けた。

「ブッ殺してみろ!!!」と。

彼女はDbDという檻の伝説となった。


DbDでは勝利のみがある。KOの意味はkill on the ring.

リングの上で殺すことを意味する。敗戦はすべからく死を意味する。


武器を手にDbDで戦う闘技者たちはたとえ勝利したとしても多くは酷く負傷している。その傷が癒えるのを待ってもらえることは無いし、たいていは癒える傷ではない。つまり10勝など到底不可能な救済であり5勝しただけでも奇跡と言える。


ここ、DbDの闘技者たちに救済があるとすればそれは「死」だ。

死ぬことによってのみ、この檻から抜け出すことが出来る。


その死体は道端に放り捨てられることも、川に流されるようなこともなく人だった物としてきちんと、ブタか魚の餌として処理される。

時には鶏の餌にはなるがそれらは全てMAEVEを訪れる狂人共が楽しむ皿の上に乗る食材となる。

つまりDbDの敗者たちは死ぬことで漸く救済を得て、最後に人として扱われ葬られる。


だがは彼女は既にほぼ無傷で8勝を遂げ10勝までもが視野に入っている。


檻の中で輝く女王。

踊る殺人人形、Dancing Dodge Dollとあだ名される女性闘技者。

その名はTHE SEVENN。


彼女の試合を見るためのチケットは瞬く間に高騰し一億円を軽く超え、彼女が出る試合に掛けられる金は数億どころか数十億円に上る。

今やDbDは彼女一人のおかげで莫大な金を産み出す文字通りのドル箱となっている。

彼女はDbDと言う檻の中で金の卵を産み出し続けるガチョウだ。


彼女はあと2勝で救済を受け地の底の檻、DbDという地獄から地上に這い出し自由となり陽光を浴びることが出来る。


だがMAEVEの支配者、銀龍は彼女に救済を与えるつもりなど微塵もないだろう。それには莫大な金がかかるからだ。

それに金の卵を産むガチョウを野に放つのは愚か者で、銀龍は愚か者ではない。

逃がすくらいならその肉を皿の上に乗せた方が良いだろう。


金。

つまりMAEVEの義務は決して彼女を逃さない。

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