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第二十五話 墓今

後藤と岸は彩を後にした。

帰りはもちろんタクシーだ。バイクで帰るわけにはいかない。

まだ彩を、と言うか和さんの飯を堪能したそうな田中さんに挨拶をしてから彩の細道を抜けて店を出た。

道路わきの植え込みに隠してある灰皿を取り出し二人は一服喫けることにした。

いくら彩はタバコを吸ってもお咎めなしと言っても和さんは何年も前にタバコを止めているってことを無視することは出来ない。

道路で飲んでいる外人連中は好きなだけタバコでもなんでも吸っていればいいが、和さんはカウンターにオレたちの席を用意していくれているんだ。

あの席はいつも格安で酒を卸してくれるエビス屋に対する和さんの口には出さない静かな謝意だ。

オレたちがいつ彩に来ても、たとえ今日のように呼ばれていない時であったとしても彩のカウンターの右手2つの席は必ず空いている。

そんな謝意に答えるのは感謝の言葉であったり酒をもっと安く卸すことでもないし、もちろん金ってわけでもない。

和さんがオレ達の席を用意してくれることに対する答えはカウンターではタバコを吸わない事だ。最後の一服だって外に出てから済ます事だ。謝意には誠意で答えるんだ。

だいたいな、タバコを吸うヤツは誰も気に留めないがタバコの匂いってのは実は堪らなく臭いんだ。

タバコを吸わないヤツにしてみれば、例えは悪いが目の前でクソの臭いを立たせる線香に火をつけられるようなもんだろう。

それにオレでさえ隣で岸が吸うアイコスだかなんだのが腐ったタールの匂いのように感じる。

もちろん岸のヤツもオレが吸うタバコの匂いに同じように嫌悪感を持っていることだろう。

彩のカウンターでタバコを吸わないって和さんへの誠意ってところももちろんあるが、オレと岸はお互いにクソの臭いを嗅がせ合わないようにタバコを吸う時は道路に出て外人連中の輪の中で吸うことにしている。

そういえば田中さんの前に灰皿が置いてあったな。田中さんはタバコを取り出すことはなかったが、それは田中さんも最低限のマナーってもんを持っているという事だろうな。そして灰皿が置かれたってことは和さんも田中さんを認めたってことだ。


岸は自分の電子タバコを取り出し、後藤はクールブースト5を取り出した。

タクシーを呼ぶ必要はない。ここは浅草雷門のすぐ近くだ。並木通りでも雷門通りにでも出ればすぐにタクシーはつかまる。

「ちょっと堅苦しい所があるけど、まあいい人だな」紫煙を吐きながら後藤が言った。

「ああ、ちょっと真面目過ぎるところがありそうだけどな。でも、お前よりは酒に詳しそうだ」岸が答える。

後藤がタバコを咥えながら岸をチラと見ると岸も後藤を見返しフッと軽く鼻で笑った。後藤もそれにならいニヤリと笑いタバコを深く吸った。

「田中さんのタバコは何だと思う?」オレは聞いてみた。岸も田中さんの前に置かれていたが使われてはいなかった灰皿を見ていただろう。岸は少し考えたから答えた。

「ピースだな」

「ピース?まだ売っているのか?」

「売ってるだろ、田中さんはピース缶だな。お前は?」

「そうだな、ラッキーストライク!田中さんはアメリカのタバコが似合うな。でかい奴はピースなんて吸わないぜ」

「言われてみればそうだな、じゃあマルボロだな」

「賭けるか?」オレは言った。

違うぜ、先日のマヌケな負けを取り返そうってわけじゃない。純粋な気持ちだ。

「いいぜ、何を賭けるんだ?」岸も乗った。

「そうだな・・・特にないな。何かあるか?」

「うーん、いや、無いな」

二人して軽く笑った。


二人はのんびりと歩いていた。

「そういえばハカイマってなんだ?」岸が言った。

「ハカイマ?なんだそれ」眉をひそめて後藤が答えた。

「トラックに入り込んできた奴がお前に言っただろ、死ねハカイマって」

ああ、あいつか。あの時、あいつは確かに言ったな。オレの額に銃口を突きつけて「死ねハカイマ」って。


プリウスがクラクションを鳴らしながら、捕まえてー!と赤信号を突っ切っていく30分ほど前、エビス屋のトラックは本所の奥まった細道に止まっていた。そのさらに奥に百恵ってスナックがあるからだ。

どう見ても消防法に引っかかる立地で建て替えは出来ないんだろう。壁はボロボロで、店の入り口に架かる庇だった物もすっかり錆きっている。昔はそこにビニールが張ってあり「百恵」とか書かれていたんだろうが、今はビニールの欠片も残っちゃいない。そんな店はどう好意的に見ても70は超えているであろうバアサンとその娘のバアサン二人でやっているスナックだ。スナックってのはカウンター越しの女と酒を飲むところだって思っていたんだが、この店では違うようだ。言ってみれば百恵って店はスナックじゃなく外見も中身もお化け屋敷と言った方が良いだろうな。


岸が聞いたという話なんだが、上の方のバアサンが言うには「私はバブルの頃は銀座でナンバーワンのホステスでね、その時にためたお金でこの店を始めた」らしい。

オレの知る限りバブルってのは30年位前の話だと思うんだが、当時あのババアが銀座でナンバーワンだとするとバブルは30年前って言うオレの認識が間違っているか、それともあのババアがタイムスリップか何かを使ったってことなんだろう。だがそんなババアにも未だに取り巻きってもんがいるようで、ここはそいつらがやってきては「昔はよかった」なんて昔話をする場所なんだろう。もちろんオレ達はこの店が営業しているところは見たことが無いし、来るつもりもない。酒は楽しく飲むもんだからな。

こんなロールプレイングゲームだったらダンジョンの奥の宝箱が置いてありそうな場所で文字通りの魔女みたいなバアサン二人がいるだけの店にも客は来るって言うんだからな。にわかには信じがたいがオレ達が酒を卸している以上、そういう事なんだろう。


そんな場所にトラックを止めて岸が酒を配達するべくトラックの荷台で準備をしていた。

オレは岸のヤツが読んでいた本を手にしてパラパラとめくってみたがもちろんそこは字で埋め尽くされていたからオレはすぐにその本を元の位置に戻した。

バックミラーに岸のヤツがビア樽とチャームを入れたカゴを持ってトラックなんか絶対に入れない細道に入っていくのが見えた。

あのお化け屋敷に持っていくチャームはチョコやピーナッツ、年寄りの寄り合い所らしくおつまみ昆布なんてものもある。これが傑作で昔はおつまみ昆布じゃなくて塩と旨味調味料を振ったパリパリの乾燥ワカメのおつまみのチャームを持って行っていたんだが、ある客がこれは美味いってんでバカみたいに食った挙句に大量の緑色のゲロを吐いたから乾燥ワカメは禁止になっておつまみ昆布に変更になった。

その次の日、岸のヤツはそのゲロの掃除を命じられたそうだがさすがに断ったらしい。ならエビス屋から酒を買うのは止めると脅されたようだが、残念ながらお化け屋敷に酒を卸してついでにチャームまで持ってきてくれて時にはゴミの回収までしてくれるのはオレ達以外にはいなかったようだ。

まあそういうところは岸が上手いことやってくれている。本当に頼りになるヤツなんだ。


その時、一人の男が足早にこの細道へと入ってきた。スーツを着たサラリーマン風の男で周囲を見回しながら近づいてきた。その見た感じは出来の悪い営業マンと言った風だった。後藤はそのサラリーマン風の男に目を向けはしなかったが視界の端でとらえてはいた。

男はトラックの横を通り過ぎ後藤はそれをサイドミラーでとらえていた。しかし男の姿はトラックの後ろに入り見えなくなった。

後藤はその男をドンくさいサラリーマンだと思っていたがそれは大きなミスだった。そして岸のヤツも大きなミスをしていた。

トラックの荷台で何か物音がした。岸のヤツは「百恵」に行ったはずだ。あのサラリーマンが荷台に入り込んだのか?

なぜ?何か盗めるとでも思ったのか?たまにはいつも飲んでいるビールもどきではなく本当のビールを飲みたいとでも思ったのか?

後藤はトラックを降りて後ろに回った。ノブを掴むとドアが開いた。鍵がかかっていない。岸のヤツ、不用心だろうが・・・。

後藤は荷台の中の様子を伺うが特に不審なところはなかった。

何か盗まれたのか?男の姿は見当たらなかった。

中を確認するべきだろう。

後藤は荷台の中に乗り込み電灯を点けた。

誰もいない。そう思った瞬間、後藤の背中に何かが突きつけられた

そしてそれは言った。運転席から降りた後藤とは反対側、助手席側に身を潜めていたんだろう。

「動くな」

後藤は背中に何かを突きつけられたまま男がトラックの荷台に乗り込んでくる音を聞いていた。

「見つけたぞ」

男は言った。

「誰だよお前、止めといた方が良いぜ」後藤は言ったが男は静かに言った。

「黙れ膝をつけ」

「いや、もうこっちのツレが戻ってくるぜ。そのまえに・・・」後藤は言われるがままに膝をついた。

「黙れと言った」

男は後藤の背中に突きつけていた物で後藤の後頭部を突いた。

「やっと見つけた」男は言った。

「人違いだとおも・・・」

「黙れ!!」男は後藤の後頭部を更に突いた。

分かっている、銃だよな。

「お前のせいで・・お前が・・・!」男の声は震えていた。

足音が聞こえた。百恵から戻ってくる岸だろう。

「ほら来ちまったよ、だからいった・・・」

「うるさい!黙っていろ!お前だけは・・・」男は銃を後藤の後頭部に押し付けた。

「おい、荷台の掃除か?」外から岸の声が聞こえた。

男の銃が後藤を後頭部を小突いた。

誤魔化せと言ったところだろう。後藤は言われるがままにした。

「ああ、たまにはオレが綺麗にしておこうと思ってさ、乗って待っててくれよ。岸!」

「・・・そうか?じゃあ頼むぜ」そう言う岸の声が聞こえ助手席のドアが開き、トラックがかすかに揺れ、再び締まる音が聞こえた。

「両手を広げてこっちを向け、ゆっくりとだ」男は言った。

後藤は顔の横に両手を拡げながらゆっくりと振り返った。そこにいたのは40半ばと見える男だった。眼鏡をかけていてその髪にはうっすらと白髪が混じっていた。男は振り返った後藤の額に銃を突きつけた。

そしてその後ろには薄らと開いた荷台の後部ドアから岸の顔が見えた。岸はゆっくりと小さく頷いた。

「なあ、止めておけって。こんな昼間っか・・・」

後藤の言葉を男は遮る。

「お前は絶対に殺す」男が後藤の額をなぶる様に銃を突きつける。

「なんでだよ、やめ・・・」

「死ね!ハカイマ!」男がそう言ったのと同時に後藤は思いっきり頭を左に振った。


チョットしたトリックなんだが一万円札を摘まんだ状態でそのすぐ下に別の人に手を添えてもらう。オレが一万円札を離したのを見たらそれを摘まめ。それが出来たらその摘まめた一万円をあげようと言ってみる。

誰もがそんなことで一万円が貰えるのかと喜ぶだろうがこれは不可能だ。オレが諭吉から手を離し諭吉が落ちるのを見てからそれを摘まもうと脳が指に指令を出してもその指が閉じるころには諭吉はその少し下にいる。これは人の脳の反応速度が諭吉が落ちる速度よりもわずかに遅いからだ。実に簡単そうなチャレンジに見えるが人の反応速度では落ちる諭吉を摘まむことは不可能なのだ。これはほんの1メートル先から放たれたパンチを容易に避けるボクシングの世界チャンピオンでも絶対に出来ないのだ。


それと同じで人の額に銃を突き付けていては急に頭を振られてから銃のトリガーを引いてももう遅い。その発射された銃弾は耳たぶすらかすめない。まあ落ちてくるのを見越して一瞬早く摘まもうとするのは反則だけどな。

だがこの男は反則はしなかった。オレは頭を振って一撃目の銃撃を交わし右手で銃を払いのけるだけで五分の戦いに持っていける。

これは岸と何度も試した。もちろん銃口から飛び出してくるのはプラスティックのBB弾だがそれが頭にヒットすることは一度もなかった。あとはそのまま銃を払いのけるだけだ。

だが一度だけ岸のヤツが反則をしやがってオレの耳たぶにBB弾がかすったことがあったけどな。


これは何度も練習している。だが予想外の事が起きた。耳のすぐ横で破裂した銃撃音はオレの身体の動きを止めた。

キーン!という音が脳内を満たした。男の銃を払いのけるはずのオレの右手はのんびりと踊っているようだった。男が銃をオレに向け直してくるのが見える。だがオレの脳は銃撃音で満たされていて右手に「銃を払いのけろ!」と言う指令を伝えることが出来ない。

岸が男の膝を叩きのめし、男がたまらず体勢を崩し反射的に銃が上を向いたのが見えた。だがオレは何もできなかった。オレの視界に映る全ての物はスローモーションのようだったがオレの身体の動きはさらにスローだった。

男は岸の背後からの襲撃にも意を介さず、体勢を崩しながらも手を床に付こうとすることもなくオレの額に銃口を向け直そうとしていた。

オレは何もできなかった。男の銃を払いのけるつもりの右手はのんびりとしたダンスでも踊るかのようにゆっくりと動いていた。

岸が飛び上がりよろめく男の首に手をかけるのが見えた。

男がオレの頭に銃を向けるのも見えた。

岸の手が男の首にかかったが男はそれでもオレの額に銃を向けることにこだわっていた。

男の銃からもう一発銃弾が放たれた。

オレの頭は真っ白になった。オレは岸に掴まれた男の頭がトラックの荷台に叩きつけられるのを見た。

岸は男の首から腕を解き直ぐにトラックの荷台のドアを閉めた。オレは床に倒れた男と見つめあっていた。オレは男の目を見た。男もオレを燃える炎のような目でオレを睨みつけていたがその炎は十秒も保たずにすぐに消えた。

男は死んだ。

後藤はゆっくりと立ち上がりまだキーンと響いている右耳に手を当てた。

「クソ!こんな昼間っから来やがって」

トラックが発進し荷台が揺れた。

それに合わせるように頭を振るとようやく耳鳴りが収まってきた。右の耳に指を突っ込んでグリグリとほじってみた。指を見てみるが指に血は付いていない。軽く右耳を叩いてみる。鼓膜は大丈夫そうだ。

後藤は自分の身体を改め始めた。

こっちを先にやるべきだったな。銃弾は・・・大丈夫そうだ。あとは岸にも確認してもらおう。

後藤は恐る恐る両手で自分の顔を撫で、頭も同じように撫でた。ゆっくりと両手を拡げ確認した。

血はどこにもついていない。

助かった・・・。後藤はようやく安心した。

インターホンが鳴った。

「大丈夫か!?」

「ああ、大丈夫だ」後藤の返事に岸が深い安堵のため息をついたのがインターホン越しでもわかった。

「離れた所でいったんトラックを止めてくれ。処理はしておくが銃弾を探そう」

「今すぐにか?」帰ってからでいいんじゃないか?という岸の意見にオレは同意はしなかった。

「いや、先に済ませておこう、何があるか分からないからな」

「そうか、分かった」岸は素直に同意しゆっくりとトラックを走らせた。

まだ配達が残っているからな、銃弾がかすめたビア樽なんか納品したら大事だし、客がチャームの中に薬莢を見つけたりしたら下手すりゃ警察沙汰だ。

後藤は男の死体を見ろした。まだオレを見ている気がする。足で男の頭を軽く蹴ると男はやっと向こうを見てくれた。

後藤は男の銃を拾いマガジンを抜きチャンバーの弾も抜きまとめてチャームの入ったカゴに入れた。

まるで必要以上に分解しているように見えるかもしれないが、これは最低限必要な処置だ。

セーフティさえ掛けておけば銃弾は発射されないという訳では無い。セーフティは引き金が引けなくなるだけで銃弾が放たれるのを防いでくれるわけではない。

例えばチャンバーに弾丸を入れたまま銃を焚き火の中に放り投げて一分も待てばいつ弾丸が飛んできてもおかしくはない。

そこまでしなくてもなにかのはずみで撃鉄が落ちればやはり銃弾は飛んでいく。銃を落とした時にそれが起きないという保証は誰にもできないだろう。

後藤はしゃがみ込み男の首に腕を回し頭部を掴み捻り上げた。男の首からゴリッという感触が伝わってきたが、腕を組みかえもう一度逆方向に捻ってから男の首に手を当て、胸に触れて手首を掴んだ。脈は無い、死んでいる。

「こっち見んなよ」後藤は死んでもなお見開いたままの男の瞼に手を当てた。後藤が手を離してもまだ男は後藤を見ていた。

「止めろって」

もう一度、今度は押さえつけるように瞼を下げると男はやっと諦めてくれた。

後藤は死体の処理を始めた。結束バンドで両足首を縛り、膝を曲げさせその間に頭を突っ込みダクトテープで大腿部ごと固定する。両手をひざ下に回しこれも結束バンドで固定してからダクトテープで脛ごと固定した。最後に背中から押さえつけて脛までダクトテープで縛る。コンパクトに仕上がった男の死体を少し揺らしてみるが中々の出来だ。

後はゴミ袋に詰めて終わりだ。

頭から特製ゴミ袋をかぶせていき綺麗に覆えたら死体をひっくり返す。ここで死体をしっかりと固定していないとうまく転がらない。死体を動かすのは酔客を歩かせることより面倒だ。だがちゃんと固定していればこの通り、簡単に転がってくれる。あとはテープをしっかりと張り付ければ完了なんだが、さすがに中身が中身だけに念のため、二重にしておこう。

後藤はもう一枚ゴミ袋を取り出し被せ、転がし、厳重に封をした。

そこでタイミングよくトラックが止まり岸が乗り込んできた。

「大丈夫か?」

「ああ、でも一応見てくれるか?」後藤は岸に背中を向けた。岸が後藤の身体を改め始めた、足や腕に胴体。岸が後藤の肩を叩いた。やはり問題は無いようだった。

銃口が向いていたのは頭だが跳弾って物もあるし、撃たれていても気が付かない場合もある。世の中には酔客同士で乱闘になり背中をナイフで刺されたことに気が付かず酒を飲み続け死ぬまでそれに気が付かなかったってやつもいるくらいだ。いや、死んでも気が付いていなかったのか?

ともかく、オレは大丈夫だった。

「助かった、ありがとう」

「弾を探そう」岸が言い二人は銃弾と薬莢を探し始めた。一発目の銃弾はすぐに見つかった。床にめり込んでいた。膝をついた後藤を上から狙っていたからだ。

二つの薬莢もすぐに見つかり二発目の銃弾を見つけるのは多少てこずったが、それでも見つけることが出来た。銃弾は床で跳ねて荷台の奥の壁にめり込んでいた。この様子なら銃弾が他の物を傷つけていることはないだろう。二発の銃弾と二つの薬莢を銃と同じチャームかごに入れておいた。

後はこの荷台に充満している二発分の火薬の匂いだ。岸はそんなに匂うか?と言ったが他の誰かがここに来たら怪しいと思うには十分すぎるほどだ。

後藤はバケツを手にし、そこに雑巾を放り込むとラックから適当なワインを一本選んで手にした。

岸が怪訝な表情を見せた。

「何をするんだ?」

「消臭だよ」後藤がそう言ってワインをバケツの中に叩き込む瞬間にその意を悟った岸が叫んだ。

「バカ!止めろ!!」


そうだな、確かにあの時、男は「死ねハカイマ」と言っていた。

「墓に今すぐ入れてやるぜ!とか?」

「墓に今?そうかぁ?」岸は納得していないようだったが、そう言われてもな。もうあいつに聞くわけにもいかないだろ・・・。

「うーん、墓にねえ、今・・」岸は納得していないようだったが、それを確かめる術はもうないという事ももちろん理解している。

「ハカイマ」岸はもう一度呟いてそれを頭の隅に追いやったようだった。









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