『猫』
『猫』
「生まれ変わったら何になりたい?」
そうだな、猫がいい。
一日中ごろごろして、好きな時に寝て好きな時に遊びにでかけて。
適当な民家の庭に出現して、可愛がってもらう。
ご飯をもらって撫でられて、撫でられ飽きたら帰宅して。
できればそんな民家を2、3軒は渡り歩きたい。
1軒目はおばあちゃん。
旦那さんに先立たれて、一人暮らしのおばあちゃん。
一日の殆どはテレビを見て過ごす。
「テレビはいつも騒がしくてねえ。タレントさんが言ってることがよく理解できないんだよねえ。」
お昼の情報番組はどれも恐ろしいほどに明るくて落ち着かなくなる。
「最近は腰が痛くて痛くて。立ち上がるのが精一杯だよ。」
長い間曲がったその腰をトントンと気を遣いながら、赤ん坊のように立ち上がる。
「おじいさんがいたなら、お話相手になったのにねえ。」
「でも、ミケちゃんが来てくれるからねえ。」
おばあちゃんは僕のことをミケと呼んだ。
「缶詰めが好きなのかい。」
特に好きというわけではない。
「じいちゃんはサバ缶が好きだったよう。」
そうか。
「あたしゃ、塩辛いのは好まないねえ。」
そうか。
「長男もコロナのせいで来なくなってねえ。」
パンデミックは何もかもを変えてしまった。
「もうすぐお迎えが来る気がするのに、誰にもご挨拶ができやしないねえ。」
・・・・・・にゃあ。
2軒目は大学生の兄ちゃん。
兄ちゃんは今日も大学は休講なのかな。
部屋でエロ動画ばっかり見てる。
「あちいなー。お前また来たのか。」
暇だからな。兄ちゃんと一緒だ。
「なんもねえぞ。」
期待はしていない。ちゃんと風呂に入ってるのか。いつも同じパンツ一丁だな。
「あ、そういや鰹節ならあったな。」
まじで?
「あ、賞味期限切れてら。」
むぅ。
「ま、大丈夫っしょ。お前ネコだし。」
馬鹿にするな。
「賞味期限だからダイジョブだ。消費期限切れなら俺でも食わねえけど。」
過信するなよ。
「なあタマ。」
ん?
「お前彼女いたことある?」
あるよ。
「俺、なんでできねえのかな?」
わかんね。でも、いつかできるよ。
「ほら腹筋だってバキバキだぞ?」
ガリだけどな。
「一回でいいからヤってみたいよなあ。」
そうか。
「どんな感じなのかなー。やっぱ世界変わるんかな?」
そんなことじゃ変わらないよ。
「大学も行く気しねーし。」
そうか。
「抜いたあと、死にたくなるんだよな。」
・・・・・・にゃあ。
3軒目はOLの姉ちゃん。
OLの姉ちゃん。とってもいい匂いがする。
甘い香りで酔っぱらいそうだ。
すっぴんもキュート。
「やーん。ムギちゃん。また来てくれたのー?」
毎日来るぞ。今日もいい感じに薄着だな。
「可愛すぎ!食べちゃいたい!」
どんな感情だよ。
「うそうそ。もう逃げないでよー。」
そうか。
「ムギもタカシ君と一緒じゃーん。行かないでってばー。」
あいつと一緒にはするな。
「あたしね。昨日、課長とホテル行っちゃった。」
そうか。
「奥さんもいるし、悪いって言うのは分かってるんだ。」
何が悪いのか僕には分からない。
「でも、寂しい気持ちだって分かってくれるでしょ?」
いつも言ってるもんな。
「ねえ。幸せって何なのかな。」
いっぱい食べて、いっぱい寝れること。
「あたしって、幸せになれるのかな。」
それも僕には分からない。
「明日、会社休みになんないかな。」
なるわけない。
「なるわけないよね。」
「もう、誰とも会いたくないんだ。ねえムギ。」
「あたしと、死のう?」
・・・・・・にゃあ。
もっとずっと長生きできるのに、人間はみんな死にたがる。
かくゆう僕も死んだから猫になった。
猫に生まれ変わっても何も変わらない。
みんな憎しみあうし、争いは絶えない。
ご飯は美味しくないし、寝床は不潔だ。
交通事故は恐いし、蚤はいつも元気に跳ねている。
だけれど死にたくはならない。
僕、生まれ変わっても猫がいいな。
人間っていきものは生きてるだけで苦しいんだ。
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