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2-4. 掛け違い

 その夜、三人で囲む食卓にてエレナが今日あったことを話した。


「――ということがあってですね」


 そこまで聞いたルイスの心中は、すっかりお世辞にも穏やかなものではなくなっていた。

(早速どこかの商人がエレナに目を付けたのかな――いやだめだ、こんな考え)


 そう思ってしまったルイスは、つい言葉選びを間違ってしまう。


「ふーん。すなおに貰えばよかったじゃない」

「そうですよね、って……はい?」


 エレナにとって予想外の言葉だったのだろう。思わず聞き返す。


「だから、エレナが貰っておけばよかった、って言ってるんだけど」

「え、や、ルイス様?」

「せっかくご厚意で提供してくださるというなら、その意をむげにするのも、ね?」


 掛け違ったボタンはもう直せない。堰を切ったように口から思ってもいない言葉があふれだす。


(いや、あれは決してただの厚意ではないです)

 エレナは心の中で突っ込む。ルイス様はなぜこのような物言いをするのだろう。


「そうは申しましても、素性の知れない方からの贈り物など、受け取れません」


「え、でもさ。もしかしたら、エレナのことが気になってる人かもしれないし」


 エレナは一瞬、時間が止まったかのような錯覚を覚えた。

 彼の言葉が冷や水のように降りかかる。彼女の心が、否応にも冷えていく。


(それって――。やっぱり私のことなど、ただの従者、というわけなのですね)


 エレナは尋ねずにはいられない。


「それは、どういう意味でしょうか」

(いやだ、そんなこと、聞きたくないのに)


 ルイスは言葉を止められない。


「だから、好いてくれる人の好意なんだから、ありがたく受けた方がよかったんじゃないかって」

(ばかばか。そんなこと、言うつもりじゃないのに)


「そうですか……ならば前向きに考えないといけませんね。ちょうどお店にご招待も受けましたし、伺うことにいたします」

(何言ってるの、私)


「そうすればいいんじゃないかな。ゆっくり見てくるといい。ごちそうさま、美味しかったよ」


 ルイスはたまらず席を立つ。この場から逃げるために。


「あ――お茶のご用意は」

「ん、今日はいいや、ありがとう」


 ルイスは、彼女の視線を避けるように部屋に戻った。その背中に、エレナは次の声をかけることができなかった。差し出した右手が、むなしく宙をつかむ。


 ダイニングは、一転静まり返った。


 なんてことを言ってしまったんだろう。これではまるで、チャールズ様に気があるかのようではないか。エレナはその白くなるまで握った手を、ギュッと胸に引き寄せる。


「……あーあ」


 突然発せられた隣からの声に、エレナはびくりと身を震わせた。


「なーにやってんだ? お前ら」


 振り返るエレナに、トニーが呆れた様子でため息交じりに問いかける。


「なにって……べつに」


 別に。ルイス様は私の主人。私が嫁ぐ相手のことなども常に気がかりなのだろう。

 そう。それだけだ。エレナは自分に言い聞かせる。


(でも。とても、胸が、心が。とても苦しい)


「……そうかい。ま、いいさ。それよりお茶をくれ」


 エレナはトニーの言葉に、「はい」と答えるので精いっぱいだった。


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