2-2. 計算から作業へ
“木材の重量の算出について”
何気なく読み飛ばしそうになったのを慌てて戻って読み直す。
“――木材は大きく重量物のため、その重量を実際に計測するには困難を要する。そのため『密度』を利用し、計測したい木材の体積から概数を算出する方法が現実的である――”
「密度……単位体積当たりの重量……体積はどうやって測る?」
ルイスは小さくつぶやきつつ、目次に立ち返りぱらぱらとめくっていく。
“簡易な体積の求め方”
そのままズバリな項目があったので、ページを繰るのもじれったい気持ちで本を繰っていく。
「――水槽に沈める……? 増えた水かさ分が体積と。なるほど」
水槽に水を張り、ナイフを沈める。するとナイフのかさの分、水面が上昇するわけだ。
水面の高低差と、水槽の面積を掛けると体積が求めることができる。
ナイフの重量を体積で割ると密度が求まる。これが基準を外れている品物が実際の不良品となるはずだ。
「いかに気泡を除くかが肝になりそうだな……」
そのままルイスは、より効率的に検品ができる方法の検討に入った。
「なるほど……重さを計って、細長い水槽に入れて目盛りを読み取って、計算をするだけ? 確かに簡単だけれど……、いちいち割り算をするのが手間だなぁ。俺、苦手なんだよね、割り算」
ライアンは頭をかきつつ苦笑いを浮かべる。
割り算が苦手というのはよく聞く話だ。それどころか、足し算引き算もあやしい者がほとんど。そんな中『割り算は苦手』といえるぶん、彼はまだ算術には明るい方だといえる。
「もちろん、計算し続けるのは大変ですし、疲れて間違うかもしれないですよね。そこでこれです」
そういってルイスはライアンに薄い木盤に書いた表を見せた。
「なんだい、これは」
「計算結果をあらかじめ表にしたものです。縦軸が重量、横軸が体積です」
「斜めに色がついているけれど、これはなんだい」
ルイスは表を指でなぞりながら続ける。
「はい。色が付いている部分、これが『合格』の範囲です。大体その範囲に入っていれば問題ないはずです。この表を使うことにより、都度『計算』するのではなく、それぞれの数字の近いところを読み取って合格の範囲に入っているかどうかを確認するという『作業』にすることで、検査の負担を減らすわけです」
「なるほど確かに毎度計算しなくて済みそうだけれど……実際は書かれてる数字の間にあたることが多いよね? その場合どうすればいいの?」
「より近い方を採用すればいいです。今回はここに書かれた数字以下の桁で正確である必要はありません」
ライアンは眉を寄せた。
「そりゃまたどうして」
「この数字から多少外れてもそこまで影響ないと思いますし、なにより作業の中で読み取る数字の正確さ――精度にも限界があります。仮にこの表でも不具合が減らないようなら、精度をもう一段階上げる必要があると思いますが、まずは目でできる検査精度で不具合が減らせるか、やってみませんか」
ライアンは目を伏せ、しばらく顎を撫でていたが、やがて顔を上げ頷いた。
「確かにそうだな。ナイフ自体、きっちり大きさが決まってないところからしてお察しだ」
「はい。必要以上の精度を求めても仕方ないですから。この程度で大丈夫なはずです」
「うん、これなら検査をしながら計算する手間はない」
「いけそうですか」
ライアンはもう一度表を眺めてから、ルイスに向かって力強く頷いた。
次にライアンはときおり出る不良について話を始めた。これは長くなりそうだ。
ルイスは気を引き締めて、彼の言葉に耳をかたむけた。




